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地球へ・・・二次創作パラレル小説部屋。 青爺と鬼軍曹の二人がうふふあははな幸せを感じて欲しいだけです。



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だから、僕はいつだって言ってるじゃないか!!
 
 
 

 
 
 
 
『老人のささやかな主張を聞け、若人よ(仮題)』
~テラへゆきたいッッッ☆!!!~
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 昔、君にそれはそれはよく似た少年と出会ったんだ。いいや、違うな。君がその少年そのものなんだ。君と同じ金色の髪にね、緑の瞳にね。とっても生意気そうで、はしこそうな顔をしていてね。唯一違うのは、彼は君と違って僕よりも背が低かった。
「何です、それ。新手の嫌がらせですか。」
 その子はね、とっても良い子で、僕は大層、彼を可愛がった物だ。でも、でもね。
 気がついたら、いなくなっていたんだ。(つまり、大きくなってしまっていたと。そうおっしゃるんですね、ソルジャー・ブルー。そうしてつまりは、貴方は大きくなってしまった僕が気に入らないと、そうともおっしゃるんですね。)
「それはそれは、酷く、落ち込まれた事でしょう。」
 
 林檎、お食べになります?いただくよ。
 
 
 かしり。
 
 
 林檎を食む口元は、どこか弱弱しく、僕はそれがどうにも癇に障って仕方が無い。
 
 
 意外に貴方、歯ごたえのある食べ物、お好きですよね。やわい物しか受け付けなさそうなのに。それは僕が脆弱であると?ええ、ひ弱ですよね、俺と比べたら。何より、貴方、お年を召しすぎてます。ああ、それは違う事の無い事実だ。そうでなくとも君に勝てるミュウなんて、いやしない。おや、ミュウだけですか。ジョミー、自信をもつのはとても良い事だ。しかし、自惚れてはいけない。それはいずれ身を滅ぼす。貴方のように?こうは、なりたくないだろう?そうでもありません。物好きだな。
「だって貴方、死に掛けで年寄りの癖に、きっとこの世の何よりも、貴く美しい生き物ですよ。」
本当に、君は物好きだよ。変わってる。
「ええ、変わりました。」
適応能力が特化している事は、生物として、強い証拠だ。ふふ、逞しい限りだ、ジョミー。
「壊れかけてるものに比べたら、つまらない。俺は貴方が羨ましいですよ、ソルジャー・ブルー。」
 なぜなら貴方はこれ以上、気高く綺麗にはなっても、醜くなる事はない。
「俺、自分に対して厳しいんです。特に美意識に関してはそれこそ異常な程に。」
 美しくありたいと願うのは、何も君だけではないさ。
「と、おっしゃる貴方は意地が悪い。」
 僕とて、いついかなる時でも、美しく貴くありたい。
「っは、笑止。だから嫌なんですよ、貴方。自意識過剰なのはどなたですかね。」
 それこそ、笑止千万。君が僕に勝るとでも?まだまだ、先の話さ。君はさっき、自分の事を異常と言ったが君が異常ならば、しいて言うなら僕は気違いだ。
「へえ、貴方も貴石には目がないと?」
 世辞を言うならば君のような原石は特にね。・・・・美しいものはそれだけで信仰の対象となる。道具として強烈で優秀だ。むしろ強迫的ですらある。
「美しくあれと願う君たち。
僕は君たちの願いを叶えよう。
いつ、いかなる時でさえも、僕は強く美しくあろうではないか。
美しく、美しく。そうして散っていこう。そう、潔く、気高く、美しく。花よりも花の如く。」
 朗々と詠う君も悪くは無いが、人の深層心理を勝手に読み取るソルジャー見習いはけしからんな。
「気恥ずかしいだろうと思って、代弁してさしあげただけですよ、ソルジャー。」
 本当に、こまっしゃくれたガキだな、君は。
「古狸からお褒めのお言葉を頂戴するとは、恐悦至極。そのお言葉とお美しいご尊顔、一生涯の宝といたす所存であります」
 しかも、口の減らない子ときたもんだ。
「300年には及びません。が、直に追いついて、追い越していきますけどね。いつまでも貴方の影を踏むのは我慢なりませんから。馬鹿馬鹿しい。」
 なら、僕は君の背に負ぶさろうかな。楽そうだ。
「最後まで、きっちり働いてくださいよ。潔く。」
 
 
 それは、無理難題をふっかける。
 
 
 かしり。
 
 
 林檎を食む口元が、どうにも気に入らなくて、俺はその唇から、林檎をかっさらう。そうして、
 
 
 かしり。
 
 
 自らの歯で、一口食まれた果肉へと、食いついた。
 
 
「美味だろう。」
「ハウスものにしては、なかなか。」
「ハウスもの?」
「人工的、」
「ああ、なるほど。」
「大昔の、食物栽培について教わったんです。人は、天然物と人工物の格差を随分と、楽しんでいたようですよ。」
「へえ、そりゃ酔狂だ。」
「でしょう。本物と偽物なんて、どちらも味は」
 
 
 食べたら、同じなのに。
 いいや、きっと、その差すら分からない。
 
 
「否、」
「なぜ?」
「それは否、と思う心こそ、人は拘っていたのさ。」
「そうですか。」
「多分。」
 
 
 
 馬鹿ばかしい。
 
 
 
「愛すべき、馬鹿ですね」
「それは君の事だろう、ジョミー。」
「いやいや、貴方にはおよびません」
「ははは、遠慮するな、若人よ。」
「何をおっしゃいますか、ご老体。」
「そうさ、爺さ。だからもう、そっとしといてくれないか、ジョミー。僕はもう疲れたんだ」
「おやおや、これは気が回りませんで。申し訳ありません。」
 
 
 
 安心して、お休み下さい。
 後は僕ら、若者がやっておきますので。
 
 
 
 
「そうしてくれたまえ。」
「ああ、言い忘れてました、ブルー。」
 
 
 
 
 僕、ナスカに地上を求めました。
 降りました。
 太陽が、二つありました。
 まさしくそれは、ナスカという星の景色でした。
 
 
 
 
 
「これって、ミュウにとっては、マガイモノなんでしょうか。おやすみなさい。」
 ああ、さっきの林檎。ナスカで取れたんです。ハウスものですけどね。
 
 
 
 
 
 では、良い、夢を。ソルジャー・ブルー。
 
 
 
 
 
「・・・見れるわけないだろう、そんな事言い残されて。馬鹿か君は。」
 馬鹿なのか、ジョミー。いや、馬鹿なんだろう。馬鹿でアホなソルジャーになるんだろう、君は。
「僕も大概、馬鹿をしてきたと思うけれども、それとはまた違った馬鹿なんだろうな、彼は。」
 ああ、まったく。これだから嫌なんだ。彼がいなくてもいても、結局は彼について延々と考えねばならないこの現状!!
 これが嫌で、こちとら目を瞑る、という手段に出たというのに。せっかく引きこもりになったって、馬鹿が相手じゃ意味がない。
「何せ彼は、僕にとっての最後の護りである眠りの中にまで、やってくる。」
 下手に力のあるガキに、その力をコントロールする技術を覚えさすものじゃあないな。
「僕のささやかなで平和な夢の国を、返せ。」
 腹いせに通行料をふんだくろうにも、生憎、彼から奪える物はもう、その若さ溢れる生気くらいだ。彼の未来はとうの昔に、彼を見た瞬間から僕がとってしまったから。
「・・・・案外、いいかもしれない。」
 ジョミーからエネルギーをちょっと頂いて。うん、頑張ったらテラ、本当に見れるかも、僕。
「頑張っちゃおかな。」
 老体には多少、きついものがあるけれど。
「僕は、『テラ』にこそ。」
 白か黒かなんて、どうだっていいんだ。
 どうだって、良いんだよ。ジョミー。
 僕はいつだって。
 
 
 
 
 だから、僕のささやかな主張を聞けというんだ、小童共め!!!!
 
 
 


 

20080716
PR
まだ、ここのブログを読んでくださっている方がいらっしゃるのかどうかは不明ですが、一応。
ペンネームを鳥、と変更いたしました。
また、本家サイトへ移転を計画しておりましたが、諸事情により移転が無理な状況となってしまいましたので、再び、ここのブログにてテラ二次創作は更新していこうと思います。予定としましては、しろいせかいは完結させたいです。
また、本家サイトのブログ「カキチラシ」とリンクつなげました。雑記など、主にそちらで更新するつもりです。ここのブログは完全にテラ二次小説のみの掲載といたします。
ここまで読んでくださりまして、ありがとうございました。

アオイタマキ改め鳥
テラはまだまだ静かに熱い。でも、微妙にヘタリアにも熱い(笑)
20090529



テラ最終話後の甚だしい妄想③










 読み終えた絵本を手元に置いて、一人になったベッドの上、僕は張り詰めていた糸を切るように、大きく伸びをした。トォニィは健気だ。良い子に育っているよと、思いを口にする。それから僕は、彼の名を呼んだ。
「・・・・僕らは大人、らしいですよ、ブルー?」
 いるんでしょ、出てきたらどうです。ばればれですよ。幸いにもトォニィは気がつかなかったようだけれど。思念、洩れすぎです。力のコントロール、下手になったんじゃない?
「君が彼からグラン・パと呼ばれるのなら、僕にとっちゃ、彼は曾孫も同然だよ。いや、もっとか。曾々孫?可愛い曾孫のしょぼくれた様子に、心配しないはずがない。」
 その割には、楽しんで覗き見してたみたいな気がしますけど。
 ジョミーはカーテンの後ろからのっそり出てきたブルーへと、呆れ返った視線を向けて溜息をつく。
「あなたって、どうしてそう、覗き見するのがお好きなんでしょうか。」
「おや、人聞きの悪い。僕がいつ、誰を覗き見していたって言うんだい?」
 首を傾げ、目をぱちくりさせる姿は実に愛らしい。わざとやっているのだろうか、きっとそうだ。彼は自身の容姿を熟知している。ついでとばかりに上目遣いで此方を見る。
今は同い年の小さな彼を、思わずどこかへ連れ去り閉じ込めてしまいたい衝動に駆られる自分に、ジョミーは舌打ち一つ。悟られぬように、照明の下、青の間の主に相応しい雰囲気を纏う少年から、少しだけ目を逸らした。
「かつてのあなたが、ですよ。ソルジャー・ブルー。あなた、暇さえあればアタラクシアの僕の元へ思念体で来てたでしょう。知ってるんですよ。当時は分かりませんでしたけど。シャングリラに来てから暫く、よくよく考えたらあれは、あなただと。思えば物心ついた頃から、あれ?僕、誰かに見られてる?、とかずっと思ってましたよ。あれ、あなたでしょ。・・・・まったく、よくハーレイが許してましたね。」
 つらつらと言葉を並べながら、気持ちが落ち着いてきた頃を見計らい、ジョミーは再び、ブルーで視界をいっぱいにした。彼は当たり前のように、真正面から自分を覗き込んでいる。あまりの近さにちょっと仰け反った。座ってくださいよ、とトォニィにしてやるのと同じように自分の隣を示して、二度、敷布をたたく。
 言われるままに、しかし、トォニィとは逆の位置で自分のベッドに腰を降ろしたブルーは、大人しくしているかと思いきや、ジョミーを巻き込みそのまま後ろへ倒れ込む。体が白い布団の上に沈んだ瞬間、ジョミーは馬鹿らしくなって、全ての考える力を放棄しようと思った。
「ブルー。何するんですか。頭、打っちゃいましたよ。」
「ベッドの上で?」
「ええ、やわい、あなたの胸で。」
「それはすまない事をした。」
「いいえ、別に。気にしてませんから。ブルーこそ、痛くなかったですか。」
「ジョミー、投げやりの気遣いは遠慮するよ。」
「奥ゆかしい人ですね。」
「ありがとう。」
 花がほころぶ様な微笑み。彼にぴったりの表現だろう。実際、花よりも芳しい少年の笑顔は誰をも魅了するだろう。
思えば彼の笑顔を、自分は数える程しか見ていなかったような気がする。なぜなら、気がついたら彼はいつも眠っていたのだ。長い睫が伏せられた寝顔ならば、幾度となく眺めてきた。彼の側にあらば何か、そう、何かが見えるような、分かるような気がしたから。彼の寝顔ですら、自分は導かれ、そして安堵した。
青の間は自分にとって、たんなる聖域ではなかった。皆が口をそろえて青の間は神域だと、聖域だと自分に告げていたあの頃、まだまだ新米ソルジャーの己は、何かあれば、青の間へ、彼の枕元へと駆けて来た。逃げ出してきた、というべきだろうか。そう、今のトォニィと同じだ。思えばあの頃から「ソルジャー」にとって、ここはなくてはならない場所だったのだ。
 ふと、では彼は、と思い当たる。
 かつての己には、ソルジャー・ブルーという絶対的な存在があった。
 トォニィには、今の自分が、彼の思う心のよりどころとして存在する。
 では、彼は。
ブルーには、誰が、どこがあったのだろうか。
 フィシスか。彼の女神がそうなのか。
 隣に顔を向ければ、ブルーは昔のように、目を閉じている。眠っているのだろうか。いや、そうではないだろう。何か、考えているに違いない。彼は思案する時、目を瞑る癖がある。
手を伸ばし、ブルーの顔に掛かる前髪を掬い取る。初めて出会った頃とまったく同じ、ソルジャー・ブルーのような銀色になった彼の髪は、しっとりとした質感を持ち、己の手の中にそっと身を横たえ、静かに時を過ごしている。
 ソルジャー・ブルーには、何が心を休めてくれていたのだろうか。否、そんな気持ちが入り込む心の隙間など、ありはしなかったのだろうか。
 思念を巡らし、靄の中、水面に舟をこぐ。
 ゆたり、ゆたり。
 ぼう、と意識が薄れていく。
頬にあたる静謐な冷たさは、どこを目指して往くのだろう。
 は、と息をついた時、青の間の空気が流れを変えた。
 混濁した思考の合間、手の中の白銀を取り零す。仄かに青白く輝くシーツの波に、銀の筋が幾重も流れ、その向こう、現れた瞳の青さに息を呑む。
虚を、つかれた。
 その青い一粒の宝石は、ただそこにあるだけで、己の全てを飲み込んでしまう。圧倒された。それは、もはや彼の瞳ではない。これは、彼ではない。彼であって、彼ではない。己の視界に映るのは、澄み渡った青い色。美しい、その青は。
 ああ、そうか。
 そうだった。
 それこそが、そうなのだと、己の未熟な頭は当たり前の真理を見る。彼の心はいつだって、一途だった。忘れていたわけではない。そうではないけれど、別の何かであれば良かったのに、と思わないわけでもない。それが、自分であったら良かったと?傲慢にも程がある。彼は長い月日を生きていたのだ。いつだって彼を支え、彼を癒し、彼を追いつめ、彼を導いてきたのは、たった一つしかない、それに決まっているではないか。
そうだと理解はしても、僕はそんな彼の心を、一人の人間として、少しばかり哀れにも思う。理由など、分かるものか。今ですら、彼は心に熱い塊を持っている。
 青き色。青い星。
 テラ。我らの産土を抱く、母なるテラ。
遥かなる憧憬を胸に焼き付け、今も変わらず還れと、テラへ還れと囁く声。大いなる地球。
 手を伸ばそうと、動かすけれど、ちっとも動かぬ体に憎悪が走った。求める道はそこにある。そこにあるのだ、と叫ぶ声。
「ブルー。」
 二度目、眺めた瞳はもう、紅い色。
 向かい合う彼の紅い瞳の中で、緑の瞳がこちらを見つめている。それは紛れも無い、己の眼だと、自覚してからようやっと、体を這う血流を通して、力が命を取り戻す。
 そろそろと彼の頬を両手で包み、額をくっつけ囁いた。
「一緒に。一緒に、テラへ還りましょう。」
「ジョミー。」
「生きて、」
 共に、還りましょう。
 地球へ。
 それが、あなたの変わらぬ望みだとするならば。
 僕がいつだって。
「でも、ブルー。僕は、あなたに持っていて欲しいんです。」
「何を?」
「地球ではない、別の何かを。」
 人としての、当たり前に持つ、生きる時間、感情、欲望。生々しい感覚。
「あなたは限りなく己の欲望に忠実だった。地球へのあなたの心は美しく、気高くそして醜い人の欲だ。命をとして、たった一つを希求するあなたを僕は愛した。けれど、ようやっと今、それを否定する事が出来ます。分かりますか、ブルー」
「分からないよ、ジョミー。」
「まったく、鈍感な人ですね、あなた。情緒がなさすぎですよ。ここは分からなくとも頷く場面です。」
「無理強いはよくない」
「あんたがそれを言いますか」
「すまない、」
「そう言えば何でも通ると思っていたら、大間違いですよ。」
「すまない、ジョミー、」
「吐息たっぷりで言ったって無駄です。第一、あなた今、子供の姿なんですよ。色気半減です。凶悪なほど、可愛いですけど」
「てへ。」
「もういっぺん、逝きます?」
「それは勘弁してくれないか。」
「ならブルー。楽しく、僕らと一緒に、同じ速さで。これからは生きていきましょうね。」
 だから、一人で先に行ったりしないで下さい。後姿はもう、見たくありません。おいてきぼりなんて、絶対にごめんです。
「知ってます?あなたの横顔って、とっても奇麗なんですよ。」
「可愛いの間違いじゃないのかい?」
「いいえ、あなたはどんな姿でも、いつだって麗しいお顔立ちでいらっしゃいますよ。」
「ジョミーはとても、格好良いね。何だか、男前になった気がする。」
「苦労しましたからねえ。」
「年寄りくさい」
「あんたに言われたくないですよ、」
 いつだって、僕の隣に居て下さい。
「・・・それだと、キースが一人ぼっちになってしまうよ。」
「ほんっとう、あんたって人は空気の読めない人ですね。わざとですか。たまには黙って、僕のお願い、きいてくださいよ。ブルー。」
 僕は、もっと、あなたの横顔を堪能したいんです。
「だから。」
「ジョミー、君、けっこうタラシだね。不本意ながらときめいてしまったよ、」
「まあ、初代ソルジャー直伝の垂らし込み、ですからね」
 ついでに、キースには僕の横顔でも堪能させますよ。僕って優しい。
「では僕は、せいぜい君のジョミーの横顔を味わい尽くそう。」
「ぜひそうして下さい。」
 約束、ですよ。
 約束。
 



20080113




 そう、僕らは今も昔も、たった一つの約束を結ぶ事の出来る特別な間柄なのだから。
小話「テラ最終話後の甚だしい妄想」と同じ設定で、続き物です。先に「テラ最終話後の甚だしい妄想」をお読み頂けますと分かりやすいかと思います。ようするに、みんな生きてるよ話です











「グラン・パ」
 僕の逃亡先は決まって、その名を正しく取り戻した「青の間」の、ジョミーの膝だ。僕が泣きつきたい時、彼は必ずベッドに腰かけ、本を読んでいる。グラン・パの姿は十歳程の幼い少年のものだ。形だけは大人の僕を包み込む彼の腕は、正直、頼りない。しかし、それでも僕にとってはかけがえのない大好きな腕であり、僕はそれを二度と失わないと決めた。ジョミーの腕の中はいつも温かくて、僕はとても安心する。
「どうした、トォニィ。」
 かつて、彼がソルジャー・シンと皆から呼ばれていた頃と変わらない、凛とした優しい声が、ほわりと僕を覆う。僕は小さな彼の膝にすがりつき、グラン・パと二人きりの時間を過ごす。僕の頭を撫ぜる手は、記憶のものよりも少しだけ体温が高くて、彼がここにいる現実を喜ぶと同時に、ああ、あの頃の彼はもういないのだと、過去と今との落差を嘆く心がむせび泣く。
けれど、過去のソルジャー・シンも、今のジョミーも、僕にとってはたった一人のグラン・パなのだ。変わらない、僕の大切な人。
それで良い、それで良いんだ。彼がいてくれるだけで、僕はもう、それだけで良い。
 グラン・パの指は、僕の癖の強い髪を遊ぶように、くるくると毛先を巻きつけては、解き放つ。時折、くすくすと洩れる小さな笑い声に、何だかシリアスになっていた自分が恥ずかしくなってくるけれど、僕はじっと彼の膝に甘えて、思いに耽る事が好きなのだと思い直す。
「トォニィ、物語を読んであげようか。」
 グラン・パはそういうと、僕の答えを聞く前に、僕の髪から手を離し、ベッドの上の絵本を手に取った。情操教育には絵本が一番だ。もっともらしい声でそう言う。
僕は促され、彼の膝からしぶしぶ顔を上げて、こっちにおいで、と笑うジョミーの声に、彼と同じようにベッドへ腰掛けた。
 小さなグラン・パの横、大きな僕の体は、ちんまりと並んで、彼が膝の上に置いた絵本を覗き見る。
「ピーターパン?」
「そう。ピーターパン。ピーターパンには何かと思い出があってね。ああ、でも今の君のマントは、まるでピーターパンの様だね。なかなかイカすじゃないか。さあトォニィ、君はネバーランドへ行ってみたいと思った事はあるかい?」
 ジョミーの緑の瞳が、くるりとこちらを見上げて笑う。僕はそれに首を振って、行きたくなんかない、と厳かに呟いた。そんな僕の返答に、グラン・パは分かっているよと言わんばかりに、僕の背中にぽん、と一度、手をあてる。それだけでブリッジではあれ程、つまっていた息が、すっと通るのだから不思議だ。
 青の間は、どこか幻想的な雰囲気を漂わせる場所だ。幽玄という言葉がぴったり当てはまる。水面が広がる部屋の中、ベッドから続く長いスロープの先、ここへ来たいと強く強く願った者にしか、この部屋の扉は開かない。青の間、という名前に相応しく、部屋全体に薄青の靄がかかったようなこの場所は、かつてのシャングリラの神域ともいえる場所だ。
この部屋の主が再び、ここへ戻ってからは、主の姿の変化もある為か、以前ほどは敬遠されなくはなったけれど、特別な空間、という意味においては今もその色合いを、このシャングリラに住む者たちへはっきりと意識させている。
 昔、というべきなのだろうか。ずっと前まで、この部屋にいる時のグラン・パは、側へ近寄る事すら憚りを覚える程に、鋭い気配を発していた。恐いもの知らずと、意地から僕はソルジャー・シンへ進言した事があるけれど、その時の彼は、鞘を不要とする抜き身の剣そのものだった。
 今、隣で絵本を開くグラン・パは実に穏やかな心で、この場にある。心なしか、この部屋からは神秘的な空気だけを残して、後の、ともすれば何かが凍ってしまいそうな冷ややかさは消えていた。
僕はこの青の間が大好きだ。僕が泣きたい時、ここには必ずベッドに腰掛けるグラン・パがいる。ナスカにあった、たくさんの笑顔と穏やかな日々を彷彿させる匂いと、それでいて冷静さを心に促す空気は、未熟な僕を、暖かく迎え、癒してくれる。時には諭してさえくれるこの部屋は、僕にとって、まさに理想の楽園だ。あれだ、シャングリラの中の、シャングリラ。この部屋の正式な主は、グラン・パではないけれど。彼らはいつも、僕が逃げ出してくる時は、グラン・パをここへ残して姿を隠す。何だか、気を遣ってもらっているみたいで気恥ずかしいが、グラン・パと二人になれる唯一の時だ。悪い気はしない。むしろ、日頃の彼らの好き勝手振りを思うと、感謝の念すら沸いてくる。
姿は幼いが、やはり彼らは「大人」なのだ。
「グラン・パ、絵本、読んでよ。」
 ネバーランドは、どこにあるの。
 遠い?近い?
「どうかな。」
 ジョミーの声は、とてもとても優しくて、僕は大好きだ。
 グラン・パの手が動いて、頁をめくる。紙と紙の擦れる音が、青い世界を押し開く。
「さあ、物語の始まりです。」




20080113
息子ジョミーと父親ブルーの心うきうき田舎物語(笑)。それはいつも唐突に始まり唐突に終わるネタ話に近いもの。







「ジョミーと月と、お父さん。」
 
 
 
 
 その月を見たのは、僕がまだ小さかった頃。この片田舎ではあるけれど、人も空気も良い町へ越してきたばかりの頃だ。その時僕は、もう一人で十分、歩ける年であったが、その夜は友人宅へ遊びに行って、帰りの遅いのに父が心配して迎えに来た日の事だ。
 その夜はいつにもまして世界は暗く、閉鎖的だった。おそらく僕は一人では踏みしめる大地すら分からない不安と恐怖に、足が竦み歩く事などままならなかったのだろう。その夜、僕は久しぶりに父の背に負ぶわれて、家への旅路を進んでいた。
 僕のすぐ目の前で、父のくすんだ金の髪が風に遊ばれている。時折、頬をくすぐる父の襟足や、シャツの隙間から侵入するそよ風に、僕は父の背中や肩にひっしりと強くすがりついた。そのたび、父は微笑を零し、大丈夫だよ、ジョミー。と僕に語りかける。
 月の紅い夜だった。
 すっぽりと赤銅色に包まれた月の異様さに、父の肩越しから僕は思わず息を呑んだ。
「どうしたんだい、ジョミー。」
「月が赤いよ。」
「それはね、月が地球に食べられてしまって、イタイイタイと泣いているからだよ」
「かわいそうだよ。助けに行かなくちゃ。」
「ジョミーは優しいね。」
 誇らしげに何かを懐かしむ裏で、その言葉はどこか自嘲めいた色合い色濃く見えた。それに気づいたのは、きっと奇跡に近いだろうと今になって強く思う。父が何を思っていたのかは分からないけれど、あの日の父と赤い月を、僕はきっと忘れやしないだろう。
「ジョミー。もうしばらく散歩でもしようか。」
「どうして?」
「その間に、月が蘇るからだよ。」
「本当に?」
 父がにっこり笑ったような気がした。
「本当はね。地球は、月の影しか食べないんだ。だから、月は生きてるんだよ。ただ、死んだ振りをしてるだけなんだ。」
「どうして?」
「強がってみせてるんだ」
「誰に?」
「誰かな。ジョミーにかもしれないね。」
「僕に?」
「そう。」
きっと君に。
 最後の言葉は、はっきりとした口調で物事を口にする父にしては珍しく、くぐもってよく聞えなかった。
 父の思いを、僕はいつだってどこかで取りこぼしている。
 僕は駄目な子だと、強く思った。
「ジョミー?」
 眠ってしまったのかい?
 僕と父の二人きり。他には誰もいない散歩道を行く父の歩幅は、ゆったりと大きい。酷く落ち着いた足取りは、負ぶわれた僕にゆらゆらと心地良い振動を伝えてくる。僕は瞼を押し広げていられなくて、どうしようもなくなる。最後に、揺れる眼界がぴたりと焦点を当てたのは、夜の帳に見え隠れする金の髪ではなく、遠い、空の彼方からこちらを見つめる赤い月。
「よくお眠り、僕の愛し児よ。」
 おやすみ、良い夢を。
 肩と背中に掛かる温かさは重みと共に量を増す。随分と重くなったなあ、と感慨深く息子の成長に目元を和らげて、歳若い父親は一人、歩む足を止めない。
「とまったらまるで、僕まで一緒に眠ってしまいそうだから。」
 木立がざわめく気配に、そっと呟いて、よいしょ、と我が子を背負いなおす。安らかな寝息を立て始めた息子の腕に、薄っすらと目新しい裂傷を見つけた。
おや、と一声。さてはまた子供達は大人達の心配を他所に、森の奥深くへと入り込んだか。
「しょうのない子だ。」
 苦笑の刻む頬は、逞しい我が子は率先して森への侵入を試みたのだろう予想に、息子同様、やんちゃそうな笑みがちらりと覗く。
「あまり、森の主を驚かせないでやってくれ。彼女は、心が繊細なのだから。」
 自分達、親子と違って。
「しばらく、会っていないな。」
 今夜は仕事も済んでいる事だし、息子の非礼をわびに、共々、会いに往こうか。
 浮かんだ妙案に、父親は二度頷いて、歩幅はそのままで、足へと伝達する力の配分を増加する。
「月食の終わりには彼女の元へと着くだろう。」
 再び、世界に息吹を吹き返した月を見て、息子は何と言うだろう。彼女は、息子達の幼さ故の無邪気な行動を、笑ってくれるだろうか。
「ああ、ジョミー。早く目を覚ましておくれ。」
 思いついたら即行動がモットーの彼は、わくわくし始めた己の心が、浮き足立つのを抑えられない。
「早く。」
 それでも駆け出さないのは、己に残る父としての良心が、息子の安眠を妨げるのを良しと思わないからだろうけれども。
 それも、長くは続きそうにない。
「待つのはつまらないからな。」
 いつまでたっても、担当編集から大人げないと言われ続け、いい加減それにも慣れてはいるけれど、さすがに今夜ばかりは自分でも苦笑うしかない。
「僕みたいな父親の元へ、選ばれてきてしまったジョミーは、かわいそうだ。」
 すまない。
 謝罪する声は、喜悦に揺れてしまうのだけれど。
「でもジョミー。いつだって僕は君の事が一番、大事なんだよ。」
 父の告白は、さてどこまで響いたものか。
 笑われるのが関の山だな。
 息子の夢の世界を、妨害する時はまさに今。
「さあ、ジョミー。目を覚ませ。」
 世界は僕と君と、体を食われた赤い月。ただ、それだけなのだから。
 
 



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