地球へ・・・二次創作パラレル小説部屋。
青爺と鬼軍曹の二人がうふふあははな幸せを感じて欲しいだけです。
×
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
苗字も違えば年も離れた兄が、僕を追い出し家に一人、閉じこもるようになってから早数年。必要最低限の外出すら拒む彼の生活を繋げているのは、兄の友人であり良き理解者であるサム・ヒューストンと、僕の大嫌いな生き物であり不本意ながら同居人でもあるキース・アニアンの尽力によるところが大きい。
なぜ赤の他人である兄をそこまで支えてくれるのかと問うてみれば、面白くない事に二人揃って「だってジョミーだから、」「ジョミー・マーキス・シンだからな」の一言だ。ヒューストン氏はともかく、鉄面皮のキース・アニアンまでもがそう答えるとは思いもしなかった僕は、多いに驚いた。同時に兄が今でも人望を持ちうる人物であった事に、弟として瞼を熱くする。
閉じこもり、もとい、引きこもった兄は深層の令息として、周囲にその名を知らしめていたのだが、その兄がある日突然、僕に手紙を寄越したかと思えばあれ程、外界へ出る事を良しとしなかった彼が忽然とその姿を消してしまったのだ。
思わぬ兄の消失に、衝撃を隠せない僕を放って、僕を取り囲む知人は皆一同に、「ま、彼だから」「ジョミーだからなあ。」「ソルジャー・シンですから。」とこれまた冷静な態度で、現状を認知してしまった。
一人、兄だけでなく周囲からも取り残されて、行方をくらませた兄に対して怒りと不安と、それから何だかもう、もやもやとした気分でとりあえず一杯の心を持て余している。そして、兄の寄越した手紙もその一因を担っており、加えて今、僕の目前で嬉々としてチョコレートパフェをつついている少年も、間違いなく僕の憂鬱の種の一つだった。
一度にこうまで、なぜ僕だけが思い悩まなくてはいけないのだろう、と思考があちらの世界へと旅立とうとしている僕を、かちゃり、とガラスの器にぶつかる銀スプーンの音が無理やり引きとめる。僕はちらりと手元の手紙と眼前の夕日色が印象的な癖毛の少年、(一体、彼は兄とどういった関係なのだろうか?)との間で視線を行き交わし、仕方が無いとばかりに大きく溜息をついた。
「考え事はお終いなの?セキ叔父。」
「その叔父、っていうの、やめてくれないか。・・・トォニィ?」
「だって、グラン・パの弟なんでしょう?」
「そりゃ僕はジョミー・マーキス・シンの弟、セキ・レイ・シロエだけれども、僕とどういった関係なのか分かりもしない君に、叔父と呼ばれる筋合いはないよ。それに万が一、君が兄さんの孫としても叔父というのはおかしいじゃないか。」
「あるよ。グラン・パは僕のグラン・パだもの。あなたはグラン・パの弟のセキ・レイ・シロエ。だからセキ叔父だよ、セキ・レイ・シロエ」
「分かったからそう何度もフルネームで呼び捨てにするのはやめてよ。シロエと呼んでくれていいから」
「恥ずかしがり屋なんだね、シロエは。」
「撤回。お前に呼び捨てにされるのは何だか腹立たしい。敬称をつけろ」
「けいしょう?」
「さん、とか様、とかだよ」
「シロエちゃん!」
「からかうのは好きだけど、おちょくられるのは嫌いなんだよ。ね、トォニィちゃん?」
「僕はもう八歳だよ」
「僕は十六歳だ。」
「グラン・パは?」
「妖怪の年は聞かない方が身の為だよ。」
「グラン・パは妖怪なんかじゃないよ」
「なら兄さんはきっと化け物だ。僕の兄さん、僕が君よりも小さかった頃から、ちっとも年をとっていないからね。」
「だってグラン・パだもの!」
「またそれか。」
グラン・パはグラン・パー、すごいぞバケモノかっこいいぞヨウカイ!等と妙な節をつけて歌う幼い少年は、口の端に生クリームをつけてご機嫌だ。見た目は大層、愛らしいがどうにも胡散臭い感じをぬぐえない彼は、本当に兄とどういう関係なのか。彼の言葉を鵜呑みにするならば、兄の孫ともなるが、生憎、兄にはまだ伴侶もましてや恋人もいないはずだ。ならば常識で考えると彼は兄の研究成果だろうか。脳裏には、自分にとって憧憬の的であった兄の背中が浮かび上がった。
朝も早くから、陽光が差し込む白いリノリウムの廊下に靴音を響かせ、白衣をなびかせて颯爽と学内の研究棟を歩いていたジョミー。金の稲穂のような色鮮やかな髪は光を受けとめれば、一層、その力強さと艶を増しそれはそれは美しかった。どこかあどけなさを残しながらも精悍さのある横顔に、理知的な輝きの中にもどこかやんちゃさを秘め、多くの友人や知り合いに囲まれその中心で快活に笑う兄は、誇るべき自慢の兄だった。兄の背中でゆらゆら揺れる、マントのような白衣に焦がれ、研究者への道を選んだといっても過言ではない。
まだ兄が引きこもりになる前の全盛期。実兄ながら臆面もなく憧れる事が出来ていたあの頃は、良かったなあ。
遠くを見つめる眼差しで過去に思いを馳せるも、またもや銀のスプーンがガラスの縁にぶつかる音で我に返る。
「トォニィ。行儀良く食べろ」
「シロエも欲しいの?」
「結構です。」
「グラン・パは一緒に食べたよ。」
「あの人はああ見えて甘い物が好きだから。」
「グラン・パは奇麗な物も好きだよ。きっとこのガラスの器だって、いつもみたいに奇麗だって言って笑ってくれる。」
つ、と幼い指先が、花のように波を描く縁に沿って一周。ぐるりと旅をしてきた器の中身は、最後の陸地であるコーンフレークを残し、綺麗に姿を消している。確かに、兄は造形美あふれるものが好きだ、けれどそんな小さな所まで見ているだろうかとも思うが、小さな少年は挑戦的な眼差しでこちらを見てくるので、そうだね、と心を大人にして同意してやる。こんな小さな子供にまともに取り合うのも馬鹿馬鹿しいからだ、と自分に言い聞かせ、勝ち誇った笑みになった子供を高い目線から見下ろした。
彼の言動から推察するに、何度か兄とチョコレートパフェを食べに行ったり、出かけた事があるらしい。ならばそれはいつだったのだろうか。少なくとも自分が知る限り、兄はここ数年はろくに外にも出ない、ゴミ捨てにさえ出ないのだ。彼が出るといえば庭くらいだったろう、家の中に引きこもり、本人の言を借りると研究に没頭していたはずだ。
ではいつ、兄は外へ、こんな子供を連れて出たのだろうと疑問は膨らむばかりだ。どうでも良い事なのだが、自分の知らない兄が居る事が妙に気に入らない。そしてそれを知っている、自分の知らない子供はもっと気に入らない。もしキース・アニアンに今の僕を見られたら、絶対、呆れられるか馬鹿にされそうな感じがするが、ここにキースはいない。
疑問は解消されるべき存在だ。
答えとなりそうな鍵が、すぐそこに落ちているのならば尚更に。
探究心は大切にされるべきなのだ。兄も言っていた。セキ・レイ・シロエ。お前はブラコンだ、子供だと、冷静に判断するもう一人の自分が、やれやれと匙を投げ出したのをきっかけに、僕はとことん、この子供と向かい合う事を決心した。②へ続く
PR
この記事にコメントする
カレンダー
12 | 2025/01 | 02 |
S | M | T | W | T | F | S |
---|---|---|---|---|---|---|
1 | 2 | 3 | 4 | |||
5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 11 |
12 | 13 | 14 | 15 | 16 | 17 | 18 |
19 | 20 | 21 | 22 | 23 | 24 | 25 |
26 | 27 | 28 | 29 | 30 | 31 |
フリーエリア
最新コメント
最新記事
(05/29)
(05/29)
(01/13)
(01/13)
(01/13)
最新トラックバック
プロフィール
HN:
長四郎の
HP:
性別:
非公開
自己紹介:
地球へ・・・。ジョミブル中心テキスト同人サイトです。公式さんとは一切関係ありません。
同人サイトさんに限り
リンクフリー。
「サカサマ テラ分館」
管理人:長四郎の
連絡先
sakasano-na@zeus.eonet.ne.jp
同人サイトさんに限り
リンクフリー。
「サカサマ テラ分館」
管理人:長四郎の
連絡先
sakasano-na@zeus.eonet.ne.jp
ブログ内検索
カウンター
アクセス解析