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地球へ・・・二次創作パラレル小説部屋。 青爺と鬼軍曹の二人がうふふあははな幸せを感じて欲しいだけです。



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息子ジョミーと父親ブルーの心うきうき田舎物語(笑)。それはいつも唐突に始まり唐突に終わるネタ話に近いもの。







「ジョミーと月と、お父さん。」
 
 
 
 
 その月を見たのは、僕がまだ小さかった頃。この片田舎ではあるけれど、人も空気も良い町へ越してきたばかりの頃だ。その時僕は、もう一人で十分、歩ける年であったが、その夜は友人宅へ遊びに行って、帰りの遅いのに父が心配して迎えに来た日の事だ。
 その夜はいつにもまして世界は暗く、閉鎖的だった。おそらく僕は一人では踏みしめる大地すら分からない不安と恐怖に、足が竦み歩く事などままならなかったのだろう。その夜、僕は久しぶりに父の背に負ぶわれて、家への旅路を進んでいた。
 僕のすぐ目の前で、父のくすんだ金の髪が風に遊ばれている。時折、頬をくすぐる父の襟足や、シャツの隙間から侵入するそよ風に、僕は父の背中や肩にひっしりと強くすがりついた。そのたび、父は微笑を零し、大丈夫だよ、ジョミー。と僕に語りかける。
 月の紅い夜だった。
 すっぽりと赤銅色に包まれた月の異様さに、父の肩越しから僕は思わず息を呑んだ。
「どうしたんだい、ジョミー。」
「月が赤いよ。」
「それはね、月が地球に食べられてしまって、イタイイタイと泣いているからだよ」
「かわいそうだよ。助けに行かなくちゃ。」
「ジョミーは優しいね。」
 誇らしげに何かを懐かしむ裏で、その言葉はどこか自嘲めいた色合い色濃く見えた。それに気づいたのは、きっと奇跡に近いだろうと今になって強く思う。父が何を思っていたのかは分からないけれど、あの日の父と赤い月を、僕はきっと忘れやしないだろう。
「ジョミー。もうしばらく散歩でもしようか。」
「どうして?」
「その間に、月が蘇るからだよ。」
「本当に?」
 父がにっこり笑ったような気がした。
「本当はね。地球は、月の影しか食べないんだ。だから、月は生きてるんだよ。ただ、死んだ振りをしてるだけなんだ。」
「どうして?」
「強がってみせてるんだ」
「誰に?」
「誰かな。ジョミーにかもしれないね。」
「僕に?」
「そう。」
きっと君に。
 最後の言葉は、はっきりとした口調で物事を口にする父にしては珍しく、くぐもってよく聞えなかった。
 父の思いを、僕はいつだってどこかで取りこぼしている。
 僕は駄目な子だと、強く思った。
「ジョミー?」
 眠ってしまったのかい?
 僕と父の二人きり。他には誰もいない散歩道を行く父の歩幅は、ゆったりと大きい。酷く落ち着いた足取りは、負ぶわれた僕にゆらゆらと心地良い振動を伝えてくる。僕は瞼を押し広げていられなくて、どうしようもなくなる。最後に、揺れる眼界がぴたりと焦点を当てたのは、夜の帳に見え隠れする金の髪ではなく、遠い、空の彼方からこちらを見つめる赤い月。
「よくお眠り、僕の愛し児よ。」
 おやすみ、良い夢を。
 肩と背中に掛かる温かさは重みと共に量を増す。随分と重くなったなあ、と感慨深く息子の成長に目元を和らげて、歳若い父親は一人、歩む足を止めない。
「とまったらまるで、僕まで一緒に眠ってしまいそうだから。」
 木立がざわめく気配に、そっと呟いて、よいしょ、と我が子を背負いなおす。安らかな寝息を立て始めた息子の腕に、薄っすらと目新しい裂傷を見つけた。
おや、と一声。さてはまた子供達は大人達の心配を他所に、森の奥深くへと入り込んだか。
「しょうのない子だ。」
 苦笑の刻む頬は、逞しい我が子は率先して森への侵入を試みたのだろう予想に、息子同様、やんちゃそうな笑みがちらりと覗く。
「あまり、森の主を驚かせないでやってくれ。彼女は、心が繊細なのだから。」
 自分達、親子と違って。
「しばらく、会っていないな。」
 今夜は仕事も済んでいる事だし、息子の非礼をわびに、共々、会いに往こうか。
 浮かんだ妙案に、父親は二度頷いて、歩幅はそのままで、足へと伝達する力の配分を増加する。
「月食の終わりには彼女の元へと着くだろう。」
 再び、世界に息吹を吹き返した月を見て、息子は何と言うだろう。彼女は、息子達の幼さ故の無邪気な行動を、笑ってくれるだろうか。
「ああ、ジョミー。早く目を覚ましておくれ。」
 思いついたら即行動がモットーの彼は、わくわくし始めた己の心が、浮き足立つのを抑えられない。
「早く。」
 それでも駆け出さないのは、己に残る父としての良心が、息子の安眠を妨げるのを良しと思わないからだろうけれども。
 それも、長くは続きそうにない。
「待つのはつまらないからな。」
 いつまでたっても、担当編集から大人げないと言われ続け、いい加減それにも慣れてはいるけれど、さすがに今夜ばかりは自分でも苦笑うしかない。
「僕みたいな父親の元へ、選ばれてきてしまったジョミーは、かわいそうだ。」
 すまない。
 謝罪する声は、喜悦に揺れてしまうのだけれど。
「でもジョミー。いつだって僕は君の事が一番、大事なんだよ。」
 父の告白は、さてどこまで響いたものか。
 笑われるのが関の山だな。
 息子の夢の世界を、妨害する時はまさに今。
「さあ、ジョミー。目を覚ませ。」
 世界は僕と君と、体を食われた赤い月。ただ、それだけなのだから。
 
 



20080113
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