地球へ・・・二次創作パラレル小説部屋。
青爺と鬼軍曹の二人がうふふあははな幸せを感じて欲しいだけです。
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ジョミブル現代パラレル
「紅い月」
「紅い月」
夢を見た。僕はじっと水面を見つめている。
それが川なのか、海なのか、それとも単なる池か、もしくは水溜り程度のものなのか、とんと検討がつかない。ただ、水面と向き合っている。それだけだ。
それでも僕は水面を見ずにはいられない。
じとりと僕を見返すのは紅い瞳。
違う。これは、僕ではない。
思わず瞼に手をやれば、そこには長い前髪の向こうからうとりと微笑む紅い瞳。違う。これは、僕ではない。僕の瞳は翡翠色。この星の緑を模した、青さを持つ。目の色が映えて美しいと褒めてもらった。それは金の稲穂を冠した髪の色。ひよこと笑われた事もあるけれど、緑の目も金の髪も、僕を構成するにおいて重要な欠片のひとつ。決して苛烈さを押し留めた、儚い紅色ではない。研ぎ澄まされた切っ先を、隠すように長い銀の髪でもない。
これは僕とは違う生き物。
何より僕はこんなにも奇麗な顔をしていない。
君は誰。あなたは誰。
問いかけに答えるべき唇は、緩く弧を描くだけで発する声は聞えない。
代わりとばかりに、水面がゆらゆら、波紋を起こす。
ああ、やめて。
消えてしまう。薄れてしまう。
「駄目だ。」
悲鳴にも似た慟哭を発して僕は、目を覚ます。
「消えてしまった。」
最後の一瞬まで僕を見据えていた紅い瞳。美しい、そして怖ろしい。
あの瞳は駄目だ。
消えてはならない。見てもならない。
戸惑いすら押し殺し、囚われる心はただ、夢の中の存在に焦がれてしまう。
僕は見てはならない。
思い出してもならない。
夢を、見ない。
見てはいけない。
「君は誰。」
知ってるくせにと、からかう声はまだ子供。
いや、僕は知らない。あなたを知らない。そして君も知らない。
「君たちは何。」
酷いよ、忘れるなんて。どうして?どうして忘れるの。僕らを忘れて生きていけるの。ねえ、ジョミー。
「教えてくれ。君は誰だ。さっきのあの人は誰だ。」
教えない。教えないよジョミー。だってそんなの、ずるいもの。
「何がずるいんだ。」
得をするのはあの人だけ。ああ、ずるい。ああ、忌々しい。教えても、教えなくても嬉しがるのはあの人だけ。ジョミーが思うのはいつだって、あの人だけ。ああ、忌々しい。
「落ち着くんだ。君は誰だい。僕は君の名前を聞いている。教えておくれ。」
嘘、嘘。ジョミーは嘘をついている。ジョミーが知りたいのは僕なんかじゃない。あの人さ。あの人が知りたいから僕を知りたがる。嘘つき。嘘つき。なんて酷い。でも僕はそんなあなたも大好きだよ。ジョミー。
「もう、煩い。教える気がないのなら話しかけるな。僕は寝る。そしてあの人に会う。」
ジョミー。ジョミー。ごめんなさい。もう言わない。だから僕を見て。
「嫌だ。」
ジョミー。
「君の事は嫌いじゃないと思うけど、僕は君よりもあの人の事がもっと嫌いじゃない。」
いつだって、ジョミー、あなたはそれだ。もういいよ。僕も諦めた。
「そう、ありがとう。教えてくれるね?」
「かまわないよ。」
耳の奥で聞えていた声が、右耳のすぐ後ろで鼓膜をゆすぶる。
刺激の大きさに驚いて、思わず声を失った。
ベッドから身を起こした僕の、足にまたがるようにして現れたのは小さな子供。夕日色の癖のある髪が、くるくるとからかうように大きく揺れる。
まだ幼児といっても支障のない少年は、きらきらと瞳を輝かせて僕を凝視する。
「おはよう、グラン・パ」
「おはよう。」
つられて返した言葉の持つあまりの自然さに、僕は自分の口から転げ落ちていった台詞に、首を傾げる事も出来ない。
「僕はトォニィ。グラン・パの願いを叶える為に生まれた魔法使い。」
いたずらっぽく笑うトォニィの、額をこつんと弾いてやれば、嬉しそうに彼は笑う。その振動が、シーツを通して僕に伝わる暖かさに、なぜか心が安堵した。
「小さな魔法使い君、教えておくれ。僕の名前は?」
「ジョミー・マーキス・シン。」
「正解。どうして知ってるの」
「魔法使いの秘密だよ。」
人差し指をそっと口元にあてて呟くトォニィが、どうしようもなく愛らしく思えて僕は彼をぎゅ、と抱き締めた。
「教えておくれ、魔法使い。君はどうしてここにいるの?」
「ジョミーに会いたかったからだよ」
腕の中から僕を見上げるトォニィは、晴れやかな笑顔を見せて、そう言った。僕は腕の力を抜き、彼の頭を撫ぜてやる。
「僕は君とはどこかで会った事があるのかな」
「あるよ。」
「そうだと思った。見覚えがある。」
「どこで?」
「遠い、空の下。太陽が沈む時。今だって、僕は毎日、君との出会いと別れを繰り返してる。君は僕が知る最上の夕焼け。でも、僕は夕日よりももっと好きな物がある。」
「ジョミーは意地悪だってよく言われない?」
「言われないよ。言う人が居ないから。」
にっこり笑い、不貞腐れてしまった幼い少年を、僕は可愛い可愛いと撫ぜ続ける。
どうしてか、僕はこの温かく幸せな重みを知っている。彼を包む気配も、色も、知っている。どこでだろう。懐かしい気がして堪らない。しかし、僕の心は水面の向こうにある人に、焦がれてやまない。切なさに、胸が苦しくなる。
「ジョミー、苦しいの?」
「トォニィ。悲しいんだよ。」
「どうして?」
「紅い月が、ないから。」
その一言に、彼がかぶりをふったその刹那、腕の中から小さな体は掻き消えた。②へ
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