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地球へ・・・二次創作パラレル小説部屋。 青爺と鬼軍曹の二人がうふふあははな幸せを感じて欲しいだけです。



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小話「テラ最終話後の甚だしい妄想」と同じ設定で、続き物です。先に「テラ最終話後の甚だしい妄想」をお読み頂けますと分かりやすいかと思います。ようするに、みんな生きてるよ話です











「グラン・パ」
 僕の逃亡先は決まって、その名を正しく取り戻した「青の間」の、ジョミーの膝だ。僕が泣きつきたい時、彼は必ずベッドに腰かけ、本を読んでいる。グラン・パの姿は十歳程の幼い少年のものだ。形だけは大人の僕を包み込む彼の腕は、正直、頼りない。しかし、それでも僕にとってはかけがえのない大好きな腕であり、僕はそれを二度と失わないと決めた。ジョミーの腕の中はいつも温かくて、僕はとても安心する。
「どうした、トォニィ。」
 かつて、彼がソルジャー・シンと皆から呼ばれていた頃と変わらない、凛とした優しい声が、ほわりと僕を覆う。僕は小さな彼の膝にすがりつき、グラン・パと二人きりの時間を過ごす。僕の頭を撫ぜる手は、記憶のものよりも少しだけ体温が高くて、彼がここにいる現実を喜ぶと同時に、ああ、あの頃の彼はもういないのだと、過去と今との落差を嘆く心がむせび泣く。
けれど、過去のソルジャー・シンも、今のジョミーも、僕にとってはたった一人のグラン・パなのだ。変わらない、僕の大切な人。
それで良い、それで良いんだ。彼がいてくれるだけで、僕はもう、それだけで良い。
 グラン・パの指は、僕の癖の強い髪を遊ぶように、くるくると毛先を巻きつけては、解き放つ。時折、くすくすと洩れる小さな笑い声に、何だかシリアスになっていた自分が恥ずかしくなってくるけれど、僕はじっと彼の膝に甘えて、思いに耽る事が好きなのだと思い直す。
「トォニィ、物語を読んであげようか。」
 グラン・パはそういうと、僕の答えを聞く前に、僕の髪から手を離し、ベッドの上の絵本を手に取った。情操教育には絵本が一番だ。もっともらしい声でそう言う。
僕は促され、彼の膝からしぶしぶ顔を上げて、こっちにおいで、と笑うジョミーの声に、彼と同じようにベッドへ腰掛けた。
 小さなグラン・パの横、大きな僕の体は、ちんまりと並んで、彼が膝の上に置いた絵本を覗き見る。
「ピーターパン?」
「そう。ピーターパン。ピーターパンには何かと思い出があってね。ああ、でも今の君のマントは、まるでピーターパンの様だね。なかなかイカすじゃないか。さあトォニィ、君はネバーランドへ行ってみたいと思った事はあるかい?」
 ジョミーの緑の瞳が、くるりとこちらを見上げて笑う。僕はそれに首を振って、行きたくなんかない、と厳かに呟いた。そんな僕の返答に、グラン・パは分かっているよと言わんばかりに、僕の背中にぽん、と一度、手をあてる。それだけでブリッジではあれ程、つまっていた息が、すっと通るのだから不思議だ。
 青の間は、どこか幻想的な雰囲気を漂わせる場所だ。幽玄という言葉がぴったり当てはまる。水面が広がる部屋の中、ベッドから続く長いスロープの先、ここへ来たいと強く強く願った者にしか、この部屋の扉は開かない。青の間、という名前に相応しく、部屋全体に薄青の靄がかかったようなこの場所は、かつてのシャングリラの神域ともいえる場所だ。
この部屋の主が再び、ここへ戻ってからは、主の姿の変化もある為か、以前ほどは敬遠されなくはなったけれど、特別な空間、という意味においては今もその色合いを、このシャングリラに住む者たちへはっきりと意識させている。
 昔、というべきなのだろうか。ずっと前まで、この部屋にいる時のグラン・パは、側へ近寄る事すら憚りを覚える程に、鋭い気配を発していた。恐いもの知らずと、意地から僕はソルジャー・シンへ進言した事があるけれど、その時の彼は、鞘を不要とする抜き身の剣そのものだった。
 今、隣で絵本を開くグラン・パは実に穏やかな心で、この場にある。心なしか、この部屋からは神秘的な空気だけを残して、後の、ともすれば何かが凍ってしまいそうな冷ややかさは消えていた。
僕はこの青の間が大好きだ。僕が泣きたい時、ここには必ずベッドに腰掛けるグラン・パがいる。ナスカにあった、たくさんの笑顔と穏やかな日々を彷彿させる匂いと、それでいて冷静さを心に促す空気は、未熟な僕を、暖かく迎え、癒してくれる。時には諭してさえくれるこの部屋は、僕にとって、まさに理想の楽園だ。あれだ、シャングリラの中の、シャングリラ。この部屋の正式な主は、グラン・パではないけれど。彼らはいつも、僕が逃げ出してくる時は、グラン・パをここへ残して姿を隠す。何だか、気を遣ってもらっているみたいで気恥ずかしいが、グラン・パと二人になれる唯一の時だ。悪い気はしない。むしろ、日頃の彼らの好き勝手振りを思うと、感謝の念すら沸いてくる。
姿は幼いが、やはり彼らは「大人」なのだ。
「グラン・パ、絵本、読んでよ。」
 ネバーランドは、どこにあるの。
 遠い?近い?
「どうかな。」
 ジョミーの声は、とてもとても優しくて、僕は大好きだ。
 グラン・パの手が動いて、頁をめくる。紙と紙の擦れる音が、青い世界を押し開く。
「さあ、物語の始まりです。」




20080113
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