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地球へ・・・二次創作パラレル小説部屋。 青爺と鬼軍曹の二人がうふふあははな幸せを感じて欲しいだけです。



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「トォニィ。君は八歳と言ったね。兄さん、ジョミーと初めて会ったのはいくつの時か覚えている?」
「知りたいの?」
 口に咥えた銀のスプーンを、ぷらぷらと上下に揺らし、子供のくせに嫌味っぽい笑みを口元に貼り付けたトォニィは、見ているだけで腹立たしい。それ以前に、パフェ用の長い銀スプーンを咥えて遊ぶなど、なんて躾のなっていないガキだ。保護者の顔が見たいものだ。第一、危ない。喉につまらせたらどうする!
「頼むからさ。」
 言いつつ、メニューを彼の前に差し出す。一瞬にして、小生意気な表情がぱっと明るいものに変わり、いいよ、と頷く彼は、やはり子供だ。
「グラン・パは僕が生まれる前から、側に居てくれたんだ。」
 時々だよ、いつもじゃない。
 少し寂しそうにそう言って、少年はこれ!と白い旗がぷっくりとした黄色い島に立つ、お子様ランチを指差してみせる。成る程、壁にかけられている時計を見ればちょうど、昼時だ。いつのまにか、店内は昼食をとりにきた学生や学内関係者で賑やかさを増している。クラシック音楽がなりを潜め、親しみやすい曲調の流行歌がラジオから流れていた。
 ならば、と自分もメニューに目を通しつつ、トォニィに続きを、と促した。
「僕は浮かんでる。そこはとっても広くて、でもとっても窮屈な場所。グラン・パの声が水をゆっくり押しながら、僕に近寄ってくる。強い子になれ、元気に生まれておいで。強く、強く。・・・・グラン・パの声を追いかけて、僕は生まれてきたんだ。あったかい光が僕の側にあった」
 トォニィはオムライスにスパゲティ、ミニハンバーグ、コーンポタージュ。おまけにプリンまでついた豪勢なお子様ランチ。今月はまだ幾分か懐具合には余裕がある。そうだ、いざとなればキースを呼び出せばいい。ここはやはり、カツサンドとエビサンドに夏野菜たっぷりミネストローネのセットにするべきだろう。デザートとドリンクもつけちゃえ。たまには良いだろう。いつも、学内の食堂では一番安いランチで我慢しているんだ。稀に水だけで済まさねばならない時だってある。大学周辺では味も雰囲気も一番人気の店に朝からいるんだ。ここまできて我慢なんぞ、したくない。
「八年、九年ちょっと前、と言うわけか。」
 母親の胎内に居た頃からとは、驚きだ。冗談抜きで、兄の孫かもしれない。否、子供かもしれないぞ。
 思いの外、勢い良く垂直に挙がった手を振り、忙しく立ち回る店員を呼び注文をすませる。去り際、店員は自然な動作で、空になったパフェのグラスを下げてくれた。
「ジョミーとは?」
「ジョミーは僕が願えば、いつだって来てくれたよ。」
 砂糖壷を弄り始めたトォニィから、粗相をする前にと眉を顰めながら丸いガラス瓶を奪い取る。むっとこちらを睨み上げてくる顔は、どこか兄に似た面差しをしていた。
「なら君はしょっちゅう、兄さんと連絡を取り合っていたわけですか。」
「そうですよ。こうして。」
 言うや、トォニィはすっと目を閉じ、胸の前で祈るように手を合わせるや、黙り込んでしまう。おや、と思った時にはもう、特徴的な橙の大きな目がくるりとこちらを見つめている。しかし、どこか不安げに揺れているそれは、精彩さにかけていた。
「でも、今は返事をしてくれない。グラン・パは、もう僕の声に答えてくれない。ねえ、シロエ。グラン・パはどこ?どこに行ったの?約束したのに。僕がこうしてグラン・パを呼んだら、いつだって、・・・、・・・」
「いつだって?」
「・・・・。」
「トォニィ?」
「・・・・うるさい、あなたは黙っててよ、僕はあなたなんか嫌いだ。僕はシロエと話してるんだから、邪魔しないで。」
「トォニィ?一体、何を言って、」
「・・・・気にしないで、セキ叔父。ねえ、ジョミー・マーキス・シンなのに、セキ・レイ・シロエなのはどうして?」
 表情がよく変わる子だ。そして手癖も悪い。まんまと砂糖壷を取り戻したトォニィは、満足げに微笑んでいる。
「結論から言えば、僕とジョミーは紛れもなく血の繋がった兄弟だよ。兄さんはトォニィ、君とは違う方法で生まれた。でも僕は、君と同じ方法でこの世に生を受けた。これ以上は勘弁してもらえたら嬉しい。デリケートな問題なんだ。」
 再び、砂糖壷を取り返し、その姿が薄れはしたものの、今もはっきりとある両親への思慕を抱き、僕ら兄弟の秘密を教えてやった。
兄も僕も、両親が大好きだった。よく僕が小さい頃は二人で、古いアルバムを持ち出してはマムはこうだった、パパはこうだったと布団に包まり話し合った。懐かしい思い出と、郷愁を煽る行動。そのどちらもが、僕ら兄弟には神聖な儀式のひとつで、僕らは月明かりの下以外では、決して両親の話題を二人の間にあげる事はしなかった。
「ふぅん?じゃあ、マムやパパは?」
「もう、いないよ。君にはいるのかい?」
「いない。」
 ずい、と伸ばしてきた手を回避すれば、悔しそうに少年は口を閉じてしまう。やんわりと、そう、実験室で堅い蕾に手をあてる兄の口元は、柔らかく緩んでいた。その微笑を真似る様に、肩の力を抜いて少年の瞳を真正面から見つめた。
「君は誰と暮らしているの。」
「・・・・言いたくない。」
 言葉をつまらせ、テーブルの上から手も退けて、彼はふい、とそっぽを向いてしまう。
「なぜ?」
 微笑はそのままに、僕は音を立てないよう注意をはらって、テーブルの隅に砂糖壷を置いた。
「嫌いだから。」
 ちょうど、トォニィの視界にぎりぎりで入ったであろうそれを、彼の横顔の向こう側に見る。すっかり機嫌を悪くした彼に、更に気分を害するであろう一文を躊躇なく僕は言った。
「なぜフィシスが嫌いなんだ」
「どうして知ってるの!」
 嫌な奴、イヤなヤツ!!ひしひしと、トォニィから負の感情が伝わってくる。まさかこれ程に彼が彼女を毛嫌いしているとは知らず、僕は幼い彼に対してぶつけた行動を悔い、多少の罪悪感に胸がつまった。手元においていた手紙の差出人の名を口の中で唱えてから、僕は趣味の悪い微笑を引っ込める。下手な真似はするものではない。何だか、頬の筋肉が痛い。
「手紙が教えてくれたんだ。あと、君には申し訳ないが、僕はフィシスと面識がある。あまり親しくはないけど、ね。まさか彼女と君が共に暮らしているとは知らなかった。嫌な事を聞いたね、今回は僕が悪かった。」
 素直に謝ったおかげか、トォニィはぶつくさ唇を動かしたが、「いいよ、別に」と小さな声で僕を許す。「彼女はとても奇麗だけど?」と意地悪く聞けば、「あの人は奇麗なんかじゃないさ、」と鋭い切っ先が飛んできた。
「トォニィ、君ははっきり物事を言う。嫌いじゃない。」
「僕もシロエのこと、気に入ったよ。」
 だって、何だかグラン・パに似てるもの。
「髪も目も、真っ黒だけど!まるで黒猫みたい」
 にゃー。
 猫の鳴き真似をするトォニィの前に、お待ちかねのランチが運ばれてくる。喜色満面、早速、スプーンをとるや、彼は旗の立ったオムライスの攻略に取り掛かった。程なくして、僕の前にも付け合せのポテトフライがこんもりとのった、プレートがくる。ありがとう、と店員に言えば、にっこりと金の髪がまぶしい、僕とそう年の変わらない少女は笑った。
 ひらひらとちょうちょ結びにしたエプロンの紐が、彼女の後姿を際立たせる。ぼんやりと、白い布を見送れば、彼女の金髪と相まって、その背中はいつかの兄を彷彿とさせた。
「シロエ、ポテトちょうだい。」
「わ、こら!」
 返事をする前に、にゅっと突き出されたフォークが僕のポテトを掻っ攫う。
「グラン・パの髪の方が、奇麗だよ。」
 もぐもぐと口を動かしながら言うトォニィに、今度こそ僕は思いを言葉に出してやる。
「口に食べ物を入れながら喋るな。躾がなってない奴だ。」
「シロエの怒りんぼ!」
 手紙が汚れないよう、シャツの胸ポケットに収め、負けじと名物のカツサンドを口いっぱい頬張った。
「そんな事、知ってるさ。当たり前じゃないか。」
 ガラス越しに映った、自分の姿を見る。通りの向こうには、見慣れた大学の門がある。僕はこの春から飛び級で、かつて兄が研究員として在籍していたこの学園に入学した。憧れの白衣も授業で使うからと、三枚も購入した。うち、一枚は研究室に置きっぱなしだ。本当は、兄の使っていたものが欲しかったけれど、兄は僕よりも頭一つ分以上、背が高いし、何より恥ずかしくて言えなかった。でも僕は見つけてしまった。他の校舎からは離れて建つ、研究棟には研究員専用のロッカーがある。そこにまだ、兄の名前を記したものがあったのだ。
そっと忍び込み、その扉を押し開けばそこは兄の残した物でいっぱいだった。整理をする事を知らない兄は、とりあえず自分のスペースに突っ込めるだけ突っ込んだようだ。無秩序に物がひしめくそこに、当然のようにハンガーにかかった白衣もあった。きちんと洗濯をしてアイロンがけもしてあるのだろう。皺ひとつない白い衣は、記憶の中そのままに、そこにあった。
「どうしたっけかな。」
 自分は、あの白衣をあそこから持ち出したのか、持ち出さなかったのか。
「どうしたんだっけか。」
 すっぽりと、記憶が抜け落ちている。春先に一度、あの扉を開いただけで、それ以降、一度もあそこには立ち入っていない。はて、自分はあの白衣を持ち出したのか、そうでなかったか。持ち出したのならば、どこへやってしまったのだろう。
「どこへ?」
「グラン・パ、どこに行ってしまったんだろう。」
 会いたいなあ。
「トォニィ、」
 シロエは会いたくないの?
 そりゃ、もちろん。会って確かめたいさ。
「何を?」
 兄さんが、ジョミーの白衣をくれるかどうか。


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