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地球へ・・・二次創作パラレル小説部屋。 青爺と鬼軍曹の二人がうふふあははな幸せを感じて欲しいだけです。



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「紅い月②」



「・・・拗ねるなんて、可愛いなあ。」
 目覚めたばかりの危うい頭は、そんな一文を僕に言わせて、寂しくなった両手は行く末を持たずにだらりと落ちる。
可愛い小さな魔法使い。さようなら。
「待ちくたびれたよ。」
 すぐ側の窓から青い空を見上げて、僕は言う。
「やっと、今夜だ。ずっと、待っていた。」
 月が地球に喰われるその時。
 僕はきっと、何かを得る。
 幼い頃からずっと、夢見ていた。
 部屋に飾ってあるのは、紅い月。
 カメラマンだった僕の祖父が残した物。
 祖父は僕が生まれる前に戦争で死んでしまった。彼が唯一、この世界に遺した物。彼は僕によく似ていたという。姿も、声も、全て。名前まで同じなのだから、笑ってしまう。
きっと、僕は彼の生まれ変わりだ。彼は僕の為に遺したに違いない。それが、一枚の月のパネル。大きな、紅い月。皆既月食を撮影した物よ、とマムが教えてくれた。
 トォニィよりも幼い頃から、僕はあの写真と共に育ち、あの写真を深く愛した。なぜならそれは、僕のもの。僕だけの、紅い月。
 居間にあったものを、部屋に飾ってと強請り、手元に返ったそれを僕はずっと見続けてきた。いつか、この目で紅い月を見ようと、僕は決意していた。
 その時が、ようやく僕の元にやってくる。
 僕は満たされるに違いない。
 焦がれ続けてきた紅い月。本物が、今夜、僕の目を焼付け放さないだろう。僕は絶対に、逃しはしない。その姿の全てを、僕の中に植えつける。
「ああ、そうか。」
 きっと、水面にうつったあの人は、僕が思いつめた末に生み出した、月の化身なのだ。
 思念が紡ぎ出した、夢の具現。
 きっとそうだ。
 あの人は僕の夢。
 僕の理想。
「あなたは僕の唯一つの存在。」
 誰も見てはならないそれは、紅い月。僕ですら見てはならない。輝きを収めた今夜だけ、僕は見ることを許される。常の光はあまりに強すぎて、僕はどうしようもなくなってしまうのだから。
 地球は月を放しはしない。その大地に立ち、見上げる僕はこの地の青さを、身に秘めたもの。両瞼をそっと手の平で覆い隠す。浮かび上がるのは、両手を広げて、影に隠れ銀の月。深紅に染まったその体を、誰の目を憚る事もなく、強く強く抱きしめる僕と、紅い瞳で微笑むあなた。あなたの体はきっと冷たいだろうから。
僕はあなたに口付けを落とし、赤黒い影を外した白磁の肌は、僕の熱を受け止める。ようやく辿りついたその瞬間に、僕とあなたは一つになって、この地球の上でとけてしまえば良い。
たとえ全てが終わっても、紅い月はもう二度と、天へはその姿を現さない。人々の目に映るのは、鈍い色をした月の影。
そうして僕らは海へ還ろう。全ての根源たる海へ、母の腕へこの身を投げ出すのだ。
「優しく抱きとめてくれるから。」
 だから早く。早く、僕の前に姿を見せて。
「僕はもうとっくの昔に、君に狂ってしまった。」
 
 
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