忍者ブログ
地球へ・・・二次創作パラレル小説部屋。 青爺と鬼軍曹の二人がうふふあははな幸せを感じて欲しいだけです。



[15]  [14]  [13]  [12]  [11]  [10]  [9]  [7]  [6]  [5]  [4
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

年上ジョミと年下ブルが書きたかったんです・・・・。






第1話「入学式」




 鏡の前で何度見ても思う違和感に、苦笑いが自然、浮かんでしまう。似合わないとは思わないけれども、しっくりこない感じは回数を重ねればぬぐわれるのだろうけれど、なぜか今日だけでも、彼には新米高校生姿を見られたくないなあと、ぼんやり思った。何だか申し訳ない。ああ、この気持悪さ。そうだ、きっとこのリボンタイというのがいけないのだ。不恰好なちょうちょは、こんな羽根では飛べないだろう。
シャツの首元を彩るタイは、学年によって色が決まっている。ちなみに一年生は赤だ。二年が青で、三年生は黒だと聞いた。赤い色は自分の目の色と相まってか、白シャツに黒のブレザーと合わせると嫌なくらいに目立つ。極め付けが銀色の髪だ。白髪とよく間違われるが、自分の頭は列記とした銀色の髪、それも白銀なのだ。この年でさすがに爺扱いは困る。
「どうも、これは・・・。」
 似合わないと溜息をつき、いつまでも一人、鏡の前でうんうん唸っている暇も無いので、腹を決めて鞄を手に、自室を出る。どうか鉢合わせしませんように、と祈りながら後ろ手に擦りガラスの戸を閉めた。長年、代々住んで来た家の廊下は年季の入った面構えで、ステンドガラスを配した東の壁からとうとうと、清清しい朝の光を迎え入れている。
 外も中も、古い家だけれど、自分はこの家が好きだ。生まれた頃から住んでいる為、愛着も勿論あるのだが、そういう事は視野に入れず考えても、自分はこの家がとても気に入っていて、好きだ。自分の家が好きだなんて、僕は幸せ者だなあ、呑気に考えていたら、三階から降りてくる足音に、びくりと背に電流が走った。
 半地下一階、三階建てのこの家は、昔ながらの質屋を営んでいる。そんな質屋には、居候が一人。屋根裏部屋のような三階を陣取る彼は、現在の質屋の店番を担いつつこの辺りでは何でも屋としても有名だ。彼が店主代わりとして、単なる店番に収まらず切り盛りまでしてくれている質屋は、今では質屋は副業にも近いけれど、代々続く家業である事に間違いない。司法試験に兄が落ちたなら、彼は質屋を継ぐと言っているが、多分それはないだろう。優秀な彼のことだから、そつなく彼は司法試験に合格する。
と、すると何だろう。次男である自分が次代の主となるのか。どうだろう。自分としては、質屋よりももう一つの家業の方が合っている様な気がする。質屋は下の弟が面白がってやってくれそうだ。どちらにしろ、いずれは兄弟の誰かが継ぐなり、廃業にするかを決断せねばならない。彼とて、いつまでもここには居てくれない。
「ブルー、おはよう。今朝は早いですね。」
 凛とした声に、はた、と自我が戻る。
「・・・・おはよう。・・・。」
 柔らかく差し込む光そのものの、春の陽だまりを思わせるキラッキラッの笑顔で階上から登場した彼は、今日から新しい生活を送る君にぴったりの爽やかな朝だね、と歯の浮くよう台詞を物ともせずに言ってのける。彼は時々、こういう物言いをするからちょっと困る。
 光に照らされ伸びた影が廊下に縫い取られてしまったのか、にじりとも動けない自分に向かって、彼はゆったりとした足取りで近付く。そういえば歩くたびにぎしぎしと音を立てるこの廊下を、杉の老婦人と呼び毎日拭き掃除をしている彼は、何にでも名前をつけて愛しむ事を好む趣味の持ち主だったなあ、とどうでも良い事を思った。
「ブルー。せっかくのタイが歪んでいるよ。」
 はっと気がついた時には、彼はさっさと歪んでいるタイを解き、結びなおしている。さすがに頭二つ分も背の高さが違っては、見上げないと彼の目線とは合わない。ぼう、と、目の前にある同じく白いシャツに、しかし彼のは制服ではなく普通のシャツだ。目をやれば、ボタンが段違いに留められている事に気がついた。そっと上目遣いに彼を伺えば、磨ぐ時間もなかったのか、横や後ろ髪はあちこちへ好き勝手に寝癖がついている。更にもっと良く見れば、どことなく眠たげだ。また徹夜したのか。気息を一つ、何も言わずにボタンに手を伸ばし、一瞬、手を止めた彼を無視して、正しく留め直した。
「入学式は十時からでしたよね、ブルー。」
 えらく、タイを直すのに時間が掛かっている。機敏な動きをしていたのに、ぴたりと出来上がりを見ているのか、彼の手がタイの端から離れない。
「そうだよ、」
 尤も、ボタンを留め直すのに自分もいったい、何秒かければ気が済むのか。
「ブルーが恥ずかしくないように、ちゃんとスーツを着て、見に行きますからね。」
 とっくにボタンの位置は直ったのに、どうしても指を下ろせなかった。
「ほら、出来上がり。良く似合ってます。」
 その一言に、ばっと彼のボタンから指を離す。ついでに二歩、足を後ろへ引いた。彼の指から赤い糸が放たれる。
 遠のいた距離は、見上げなくとも彼の目線と視線が絡む。緑の眼差しは、穏やかに微笑んでいた。幼い頃から、慣れ親しんだ目の色だ。ああ、そうだ。今、自分の身を包んでいる制服。きっと、彼はぴったり似合ったんだろう。彼にとっては遠い昔の事だろうけれども、いつかこれを着て通っていた学び舎へ、今日からは自分が毎日行くのだ。
「楽しい学園生活になると良いですね。」
 居候であり今は保護者代わりとなってしまった彼は、どんな気持ちで自分を見送る為に、ろくに身支度も整えないで(足音に慌てて寝始めた脳をたたき起こしたのだろう、杉の老婦人はそれはそれは大きな家鳴りを響かせる)、自分を見つめているのだろうか。



②へ

PR
この記事にコメントする
Name
Title
Color
Adress
URL
Comment
Pass   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
この記事へのトラックバック
この記事にトラックバックする:
カレンダー
12 2025/01 02
S M T W T F S
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31
フリーエリア
最新コメント
最新トラックバック
プロフィール
HN:
長四郎の
HP:
性別:
非公開
自己紹介:
地球へ・・・。ジョミブル中心テキスト同人サイトです。公式さんとは一切関係ありません。
同人サイトさんに限り
リンクフリー。
「サカサマ テラ分館」
管理人:長四郎の
連絡先
sakasano-na@zeus.eonet.ne.jp
バーコード
ブログ内検索
カウンター
アクセス解析
忍者ブログ   [PR]