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地球へ・・・二次創作パラレル小説部屋。 青爺と鬼軍曹の二人がうふふあははな幸せを感じて欲しいだけです。



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「ブルー?」
 黙り込んでしまった自分に、彼は呼びかける。自分は決して、彼の呼びかけに無視は出来ない。してはいけない人間なのだから。それでも、頷くのがやっとだった。
「どこか痛いの?時間は余りありませんが、診ましょうか、ブルー。モグリですけど。」
 片目をつむって、茶化し気味に言う彼の腕は、無免許であるのが勿体無いくらいに素晴らしい事であるのを知っている。さすが何でも屋。もぐりだけれど。
 首を振って否を表し、早くしないとこのままではここから動けなくなってしまうと思ったので、困ったように顔を傾げた。
「何だか、気恥ずかしくて。」
 ほら、と腕を伸ばして見せる。彼はにっこり笑って言った。
「とても似合っていますよ。素敵だ。」
「そうかな。」
「カメラ、忘れずに持っていかないと。フィシスに写真を頼まれてるんだ。」
「フィシスに?」
「そうなんです、ブルー。彼女、自分も行くと言って聞かなかったんですよ。」
 我らがクイーンは、やんちゃで困りますね。
 苦笑を零す彼に、そうだね、と返し、脳裏にはやんちゃと評された従姉の姿を思い描く。儚げに微笑む傍ら、うずうずとしている様が容易に想像できて、思わず笑ってしまう。
「そうそう、笑ってて下さい。ブルーはいつも笑顔でいて欲しい。」
 ほら、またそんな恥ずかしい台詞をしゃあしゃあと言う。
「・・・いってきます。」
 さっさと行かないと、恥ずかしくてどうにかなりそうだ。
「気をつけて、ブルー」
「いってきます、ジョミー。」
 手を振る彼を後ろに、勢い良く階段を駆け下りる。軽やかな足音に混じり、ぎしりと唸りを上げる老婦人の声がする。そのまま上へと続く声は、彼が自室へ引っ込んだ事を教えてくれた。
おそらく、彼は一眠りをせずあのガラクタといったら彼は嫌な顔をするが、おかしな物でいっぱいの部屋からカメラを探す事に集中するだろう。何せ女王陛下からのお達しだ。もし見つからなかったら彼の事だ。ちょちょいと作ってしまうかもしれない。彼はとても器用なのだ。しかし、写真写りは悪くはない方だけれど、高校生にもなってばしゃばしゃ写真を撮られるのはちょっと、体面が悪いなと思った。
 騒がしく玄関を飛び出し、二段飛びで階段を降りる。そのまま門を蹴破る勢いで押し開けて、坂道を駆け下りた。息が上がるのも気にせず、一気に学校向かってひた走る。途中、公園のある大通りへ繋がる十字路に差し掛かったところで、ようやく走るのをやめた。春先だと言うのに、額から汗が滴り落ちる。上がる息に、膝に手をやり前かがみになると、赤いタイが視界に映る。
 奇麗な羽根を二つ、広げたちょうちょが呼吸に合わせて羽ばたいている。そこでやっと自分は、そっと手で蝶の羽根を撫ぜ、今日初めて心から笑った。ジョミーが結んでくれた赤いタイが、制服に馴染むようになるまで、何日掛かるだろうか。明日は結び直してもらわなくても良いように、もっと上手くやろう。
 鏡の前に立った時、確かにあった違和感は、整った形の赤いタイを見てからはどこかへ奇麗さっぱり、消えていた。
 落ちつきを取り戻した胸の奥、手馴れた動きでタイを結んだジョミーの手を反芻する。言えば、コツを教えてくれるだろうか。喜んで教えてくれると、そう思った。
 朝が始まる。




③へ
 
 
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年上ジョミと年下ブルが書きたかったんです・・・・。






第1話「入学式」




 鏡の前で何度見ても思う違和感に、苦笑いが自然、浮かんでしまう。似合わないとは思わないけれども、しっくりこない感じは回数を重ねればぬぐわれるのだろうけれど、なぜか今日だけでも、彼には新米高校生姿を見られたくないなあと、ぼんやり思った。何だか申し訳ない。ああ、この気持悪さ。そうだ、きっとこのリボンタイというのがいけないのだ。不恰好なちょうちょは、こんな羽根では飛べないだろう。
シャツの首元を彩るタイは、学年によって色が決まっている。ちなみに一年生は赤だ。二年が青で、三年生は黒だと聞いた。赤い色は自分の目の色と相まってか、白シャツに黒のブレザーと合わせると嫌なくらいに目立つ。極め付けが銀色の髪だ。白髪とよく間違われるが、自分の頭は列記とした銀色の髪、それも白銀なのだ。この年でさすがに爺扱いは困る。
「どうも、これは・・・。」
 似合わないと溜息をつき、いつまでも一人、鏡の前でうんうん唸っている暇も無いので、腹を決めて鞄を手に、自室を出る。どうか鉢合わせしませんように、と祈りながら後ろ手に擦りガラスの戸を閉めた。長年、代々住んで来た家の廊下は年季の入った面構えで、ステンドガラスを配した東の壁からとうとうと、清清しい朝の光を迎え入れている。
 外も中も、古い家だけれど、自分はこの家が好きだ。生まれた頃から住んでいる為、愛着も勿論あるのだが、そういう事は視野に入れず考えても、自分はこの家がとても気に入っていて、好きだ。自分の家が好きだなんて、僕は幸せ者だなあ、呑気に考えていたら、三階から降りてくる足音に、びくりと背に電流が走った。
 半地下一階、三階建てのこの家は、昔ながらの質屋を営んでいる。そんな質屋には、居候が一人。屋根裏部屋のような三階を陣取る彼は、現在の質屋の店番を担いつつこの辺りでは何でも屋としても有名だ。彼が店主代わりとして、単なる店番に収まらず切り盛りまでしてくれている質屋は、今では質屋は副業にも近いけれど、代々続く家業である事に間違いない。司法試験に兄が落ちたなら、彼は質屋を継ぐと言っているが、多分それはないだろう。優秀な彼のことだから、そつなく彼は司法試験に合格する。
と、すると何だろう。次男である自分が次代の主となるのか。どうだろう。自分としては、質屋よりももう一つの家業の方が合っている様な気がする。質屋は下の弟が面白がってやってくれそうだ。どちらにしろ、いずれは兄弟の誰かが継ぐなり、廃業にするかを決断せねばならない。彼とて、いつまでもここには居てくれない。
「ブルー、おはよう。今朝は早いですね。」
 凛とした声に、はた、と自我が戻る。
「・・・・おはよう。・・・。」
 柔らかく差し込む光そのものの、春の陽だまりを思わせるキラッキラッの笑顔で階上から登場した彼は、今日から新しい生活を送る君にぴったりの爽やかな朝だね、と歯の浮くよう台詞を物ともせずに言ってのける。彼は時々、こういう物言いをするからちょっと困る。
 光に照らされ伸びた影が廊下に縫い取られてしまったのか、にじりとも動けない自分に向かって、彼はゆったりとした足取りで近付く。そういえば歩くたびにぎしぎしと音を立てるこの廊下を、杉の老婦人と呼び毎日拭き掃除をしている彼は、何にでも名前をつけて愛しむ事を好む趣味の持ち主だったなあ、とどうでも良い事を思った。
「ブルー。せっかくのタイが歪んでいるよ。」
 はっと気がついた時には、彼はさっさと歪んでいるタイを解き、結びなおしている。さすがに頭二つ分も背の高さが違っては、見上げないと彼の目線とは合わない。ぼう、と、目の前にある同じく白いシャツに、しかし彼のは制服ではなく普通のシャツだ。目をやれば、ボタンが段違いに留められている事に気がついた。そっと上目遣いに彼を伺えば、磨ぐ時間もなかったのか、横や後ろ髪はあちこちへ好き勝手に寝癖がついている。更にもっと良く見れば、どことなく眠たげだ。また徹夜したのか。気息を一つ、何も言わずにボタンに手を伸ばし、一瞬、手を止めた彼を無視して、正しく留め直した。
「入学式は十時からでしたよね、ブルー。」
 えらく、タイを直すのに時間が掛かっている。機敏な動きをしていたのに、ぴたりと出来上がりを見ているのか、彼の手がタイの端から離れない。
「そうだよ、」
 尤も、ボタンを留め直すのに自分もいったい、何秒かければ気が済むのか。
「ブルーが恥ずかしくないように、ちゃんとスーツを着て、見に行きますからね。」
 とっくにボタンの位置は直ったのに、どうしても指を下ろせなかった。
「ほら、出来上がり。良く似合ってます。」
 その一言に、ばっと彼のボタンから指を離す。ついでに二歩、足を後ろへ引いた。彼の指から赤い糸が放たれる。
 遠のいた距離は、見上げなくとも彼の目線と視線が絡む。緑の眼差しは、穏やかに微笑んでいた。幼い頃から、慣れ親しんだ目の色だ。ああ、そうだ。今、自分の身を包んでいる制服。きっと、彼はぴったり似合ったんだろう。彼にとっては遠い昔の事だろうけれども、いつかこれを着て通っていた学び舎へ、今日からは自分が毎日行くのだ。
「楽しい学園生活になると良いですね。」
 居候であり今は保護者代わりとなってしまった彼は、どんな気持ちで自分を見送る為に、ろくに身支度も整えないで(足音に慌てて寝始めた脳をたたき起こしたのだろう、杉の老婦人はそれはそれは大きな家鳴りを響かせる)、自分を見つめているのだろうか。



②へ

もし、皆既月食が天気が悪くて見えなかった場合のジョミーさん。




 一人、暗闇の中に佇み暫くの事。もそりとポケットの中から僕は文明の利器を取り出した。
「・・・・・・あ、もしもしシロエ?僕だけど。うん。眉毛と一緒にさ、これから花火やらない?うん、そう。ぱっと派手にさあ、打ち上げ花火とかロケット花火とか、ウィリアムの家めがけて飛ばしてみない?うん。そうそう。・・・・キースに買わせてきたらいいよ。どうせあいつ、今日もマザーから残業もらって喜んでるんだろ。趣味悪。・・・・・・うん、そう、そう。え?他にも?そうだなあ・・・・リオとか、どう?ほら、この間、シロエに紹介した、うん。そ、飴ちゃんくれるお兄ちゃんね。・・・・・ああ、大丈夫。きっと持ってきてくれるよ。・・・・どうせリオにひっついて後、適当に何人か来るだろうから。え、サム?サムはどうせほっといても来るから問題ないよ。うん、それじゃあ待ってるから。よろしく。あ、チャッカマンと蝋燭、バケツも。うん。じゃ、後で。」
 買い換えたばかりの携帯電話は、世界最薄と宣伝文句がかかっているものだ。あまりに薄すぎて、どうも僕には勝手が悪い。ほら、今だってブルー色の二つ折り携帯電話を思い切り閉じて、どこかが割れたような音がした。
「・・・・正直、萎えたわ何かもう。」 
 次の皆既月食の時は、街中を照る照る坊主でいっぱいにしよう。
 今日は、隠れた月をおびき出すために、宴をもよおそう。これでひょっこり出てきた儲けだけど、まあ、無理だろう。それにそんな尻軽な奴はいらない。
 花火。真っ暗闇を、照らしておくれ。
 すべてを弾け飛ばして。
 爆発させておくれよ。









はい、という事で楽しみにしてました本日の皆既月食は見事、悪天候によりその姿、欠片すら見えず。ああ、残念。ちょっと、本気で萎えます。くそ。調子に乗って皆既月食をテーマに小説まで書いたのに。うあー、やっちゃったよーやっちゃったなー、みたいな感じというのはまさにこんな感じだろうなあ、きっと。
あんまりにも残念なので、気分を上げる為に月食が悪天候で見れなかったジョミの行動なんかを予想。
①腹いせに何かする(例:みんなを巻き込み火遊び。ロケット花火がハーレイ宅襲撃とか)
②一人、自室の月のパネルを見て思いを馳せる(根暗)
③遠い前世でにソルジャー何て呼ばれたのは伊達じゃない、って所を見せ付けてくれる。天候すらも鬼軍曹ジョミーには関係ない。
なんて事を考えたりして。
でも、本当に残念だなあ・・・。見たかった。昔、小学生の頃ですかね?夜から月食が始まる日があって、その時は天気もよく、しっかり月の影やうつりゆく輪郭、飲み込まれていく過程を見れたんですけど。えらく印象に残ってまして。いつか必ず、もう一度見たいなあとその日は子供ながら、夜中、朝方までずっと見ていて眠気半分に思ったものです。あの時見た、赤銅色の月が忘れられない。紅い月。次回はぜひとも見たいところです。



「紅い月②」



「・・・拗ねるなんて、可愛いなあ。」
 目覚めたばかりの危うい頭は、そんな一文を僕に言わせて、寂しくなった両手は行く末を持たずにだらりと落ちる。
可愛い小さな魔法使い。さようなら。
「待ちくたびれたよ。」
 すぐ側の窓から青い空を見上げて、僕は言う。
「やっと、今夜だ。ずっと、待っていた。」
 月が地球に喰われるその時。
 僕はきっと、何かを得る。
 幼い頃からずっと、夢見ていた。
 部屋に飾ってあるのは、紅い月。
 カメラマンだった僕の祖父が残した物。
 祖父は僕が生まれる前に戦争で死んでしまった。彼が唯一、この世界に遺した物。彼は僕によく似ていたという。姿も、声も、全て。名前まで同じなのだから、笑ってしまう。
きっと、僕は彼の生まれ変わりだ。彼は僕の為に遺したに違いない。それが、一枚の月のパネル。大きな、紅い月。皆既月食を撮影した物よ、とマムが教えてくれた。
 トォニィよりも幼い頃から、僕はあの写真と共に育ち、あの写真を深く愛した。なぜならそれは、僕のもの。僕だけの、紅い月。
 居間にあったものを、部屋に飾ってと強請り、手元に返ったそれを僕はずっと見続けてきた。いつか、この目で紅い月を見ようと、僕は決意していた。
 その時が、ようやく僕の元にやってくる。
 僕は満たされるに違いない。
 焦がれ続けてきた紅い月。本物が、今夜、僕の目を焼付け放さないだろう。僕は絶対に、逃しはしない。その姿の全てを、僕の中に植えつける。
「ああ、そうか。」
 きっと、水面にうつったあの人は、僕が思いつめた末に生み出した、月の化身なのだ。
 思念が紡ぎ出した、夢の具現。
 きっとそうだ。
 あの人は僕の夢。
 僕の理想。
「あなたは僕の唯一つの存在。」
 誰も見てはならないそれは、紅い月。僕ですら見てはならない。輝きを収めた今夜だけ、僕は見ることを許される。常の光はあまりに強すぎて、僕はどうしようもなくなってしまうのだから。
 地球は月を放しはしない。その大地に立ち、見上げる僕はこの地の青さを、身に秘めたもの。両瞼をそっと手の平で覆い隠す。浮かび上がるのは、両手を広げて、影に隠れ銀の月。深紅に染まったその体を、誰の目を憚る事もなく、強く強く抱きしめる僕と、紅い瞳で微笑むあなた。あなたの体はきっと冷たいだろうから。
僕はあなたに口付けを落とし、赤黒い影を外した白磁の肌は、僕の熱を受け止める。ようやく辿りついたその瞬間に、僕とあなたは一つになって、この地球の上でとけてしまえば良い。
たとえ全てが終わっても、紅い月はもう二度と、天へはその姿を現さない。人々の目に映るのは、鈍い色をした月の影。
そうして僕らは海へ還ろう。全ての根源たる海へ、母の腕へこの身を投げ出すのだ。
「優しく抱きとめてくれるから。」
 だから早く。早く、僕の前に姿を見せて。
「僕はもうとっくの昔に、君に狂ってしまった。」
 
 
ジョミブル現代パラレル




「紅い月」


 
 夢を見た。僕はじっと水面を見つめている。
 それが川なのか、海なのか、それとも単なる池か、もしくは水溜り程度のものなのか、とんと検討がつかない。ただ、水面と向き合っている。それだけだ。
 それでも僕は水面を見ずにはいられない。
 じとりと僕を見返すのは紅い瞳。
 違う。これは、僕ではない。
 思わず瞼に手をやれば、そこには長い前髪の向こうからうとりと微笑む紅い瞳。違う。これは、僕ではない。僕の瞳は翡翠色。この星の緑を模した、青さを持つ。目の色が映えて美しいと褒めてもらった。それは金の稲穂を冠した髪の色。ひよこと笑われた事もあるけれど、緑の目も金の髪も、僕を構成するにおいて重要な欠片のひとつ。決して苛烈さを押し留めた、儚い紅色ではない。研ぎ澄まされた切っ先を、隠すように長い銀の髪でもない。
 これは僕とは違う生き物。
 何より僕はこんなにも奇麗な顔をしていない。
 君は誰。あなたは誰。
 問いかけに答えるべき唇は、緩く弧を描くだけで発する声は聞えない。
 代わりとばかりに、水面がゆらゆら、波紋を起こす。
 ああ、やめて。
 消えてしまう。薄れてしまう。
「駄目だ。」
 悲鳴にも似た慟哭を発して僕は、目を覚ます。
「消えてしまった。」
 最後の一瞬まで僕を見据えていた紅い瞳。美しい、そして怖ろしい。
 あの瞳は駄目だ。
 消えてはならない。見てもならない。
 戸惑いすら押し殺し、囚われる心はただ、夢の中の存在に焦がれてしまう。
 僕は見てはならない。
 思い出してもならない。
 夢を、見ない。
 見てはいけない。
「君は誰。」
 知ってるくせにと、からかう声はまだ子供。
 いや、僕は知らない。あなたを知らない。そして君も知らない。
「君たちは何。」
 酷いよ、忘れるなんて。どうして?どうして忘れるの。僕らを忘れて生きていけるの。ねえ、ジョミー。
「教えてくれ。君は誰だ。さっきのあの人は誰だ。」
 教えない。教えないよジョミー。だってそんなの、ずるいもの。
「何がずるいんだ。」
 得をするのはあの人だけ。ああ、ずるい。ああ、忌々しい。教えても、教えなくても嬉しがるのはあの人だけ。ジョミーが思うのはいつだって、あの人だけ。ああ、忌々しい。
「落ち着くんだ。君は誰だい。僕は君の名前を聞いている。教えておくれ。」
 嘘、嘘。ジョミーは嘘をついている。ジョミーが知りたいのは僕なんかじゃない。あの人さ。あの人が知りたいから僕を知りたがる。嘘つき。嘘つき。なんて酷い。でも僕はそんなあなたも大好きだよ。ジョミー。
「もう、煩い。教える気がないのなら話しかけるな。僕は寝る。そしてあの人に会う。」
 ジョミー。ジョミー。ごめんなさい。もう言わない。だから僕を見て。
「嫌だ。」
 ジョミー。
「君の事は嫌いじゃないと思うけど、僕は君よりもあの人の事がもっと嫌いじゃない。」
 いつだって、ジョミー、あなたはそれだ。もういいよ。僕も諦めた。
「そう、ありがとう。教えてくれるね?」
「かまわないよ。」
 耳の奥で聞えていた声が、右耳のすぐ後ろで鼓膜をゆすぶる。
 刺激の大きさに驚いて、思わず声を失った。
 ベッドから身を起こした僕の、足にまたがるようにして現れたのは小さな子供。夕日色の癖のある髪が、くるくるとからかうように大きく揺れる。
 まだ幼児といっても支障のない少年は、きらきらと瞳を輝かせて僕を凝視する。
「おはよう、グラン・パ」
「おはよう。」
 つられて返した言葉の持つあまりの自然さに、僕は自分の口から転げ落ちていった台詞に、首を傾げる事も出来ない。
「僕はトォニィ。グラン・パの願いを叶える為に生まれた魔法使い。」
 いたずらっぽく笑うトォニィの、額をこつんと弾いてやれば、嬉しそうに彼は笑う。その振動が、シーツを通して僕に伝わる暖かさに、なぜか心が安堵した。
「小さな魔法使い君、教えておくれ。僕の名前は?」
「ジョミー・マーキス・シン。」
「正解。どうして知ってるの」
「魔法使いの秘密だよ。」
 人差し指をそっと口元にあてて呟くトォニィが、どうしようもなく愛らしく思えて僕は彼をぎゅ、と抱き締めた。
「教えておくれ、魔法使い。君はどうしてここにいるの?」
「ジョミーに会いたかったからだよ」
 腕の中から僕を見上げるトォニィは、晴れやかな笑顔を見せて、そう言った。僕は腕の力を抜き、彼の頭を撫ぜてやる。
「僕は君とはどこかで会った事があるのかな」
「あるよ。」
「そうだと思った。見覚えがある。」
「どこで?」
「遠い、空の下。太陽が沈む時。今だって、僕は毎日、君との出会いと別れを繰り返してる。君は僕が知る最上の夕焼け。でも、僕は夕日よりももっと好きな物がある。」
「ジョミーは意地悪だってよく言われない?」
「言われないよ。言う人が居ないから。」
 にっこり笑い、不貞腐れてしまった幼い少年を、僕は可愛い可愛いと撫ぜ続ける。
 どうしてか、僕はこの温かく幸せな重みを知っている。彼を包む気配も、色も、知っている。どこでだろう。懐かしい気がして堪らない。しかし、僕の心は水面の向こうにある人に、焦がれてやまない。切なさに、胸が苦しくなる。
「ジョミー、苦しいの?」
「トォニィ。悲しいんだよ。」
「どうして?」
「紅い月が、ないから。」
 その一言に、彼がかぶりをふったその刹那、腕の中から小さな体は掻き消えた。


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