地球へ・・・二次創作パラレル小説部屋。
青爺と鬼軍曹の二人がうふふあははな幸せを感じて欲しいだけです。
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第3話またの名をブルーの妄想劇場開演
春の陽気はいとも簡単に、気持ちの糸を弛めてしまう。それは無意識の内に襲ってくるのだから堪らない。いつも、ふらと意識が遠のく事すら感じない。後からそれを思うたびに、何ともいえない寒気がする。ましてや考えたくない事や、やりたくない事が差し迫ってくると、心は制御を解き放ち、自由になった精神は好き勝手、あちらこちらを練り歩く。
瞼を薄く押し開き、眼前の頭の数を数えてみた。ひとつ、ふたつ、みっつ、よっつ。数えるほども無い頭に、ちょっと憂鬱な気分になってしまった。そういえば、リオはどこへ行ったのだろうか。ああ、彼は背が高いから、もっと列の後ろにいるのだったと思い出した。
僕はこの背の順に並ぶという事が嫌いだ。せめて名簿順であったら良かったのに。もしくは、好きな順。これが一番良いと思う。生徒の自主性を大切に、とご立派な校則を掲げているのなら、今でこそ、その校則に則った生徒指導を行うべきではないのだろうか。
ああ、矛盾だ。学校という世界は矛盾だらけだ。すなわち、社会は矛盾で構成されている。ああ、忌々しい。忌々しい。ジョミーなら、きっとそう言っただろう。彼の口癖はたくさんあるけれど、「忌々しい」は、その中でもよく彼が口にするお題目だ。そうだ。ジョミーなら、この状況をどう打破するだろうか。打破どころか、彼は最初からこの列には並ばないだろう。当然、彼がそうするならば僕はそうするであろう事を知っているから、同じく並ばない。並ばないという事はこの場には僕らは姿も現さない。そうだ、僕は図書室へ逃げよう。その先では必ず、ジョミーが不機嫌そうな顔で居座っているはずだ。僕が来る事を承知で待っているのだ。
「どうしてそこまで嫌いなんだい?」
呑気な春の気配に脳みそを溶かされる危機は、どうやら免れたらしい。
腰に手をあてて、ちょっと怒った風に僕が言うと、彼はぷい、と顔を背け読書に没頭する振りをする。
「嫌がっても仕方ないだろう?学校の決め事だ。」
「どの口でそんな事を言ってるのブルー?」
露台に差し込む光は、乳白色の床に反射して、図書室内へ燦々と太陽の恵みを与えている。それに目を細めて、四人掛けの机の角と角、彼から見て一番、距離のある場所に腰掛けた。
「君だって僕を探してくるとか上手い事言って、どうせ抜け出してきたんだろう。とんだ生徒会長殿だよ、まったく。」
憤慨する彼に、意外さを感じて僕は声のトーンを落とす。
「怒ってるの?副会長。」
すると彼は、ぱっと書面から顔を上げ、目をぱちくりとさせてけろっと言った。
「まさか。」
その返答に、にや、と向かい合わせで笑って、僕は席を立ち、彼のすぐ側の椅子に座り直した。ぱたん、と本を閉じ、彼はにっこり笑って言う。
「では親愛なる我が友よ。これからのご予定は?」
「そうだね、腹心の友よ。まずはこの牢獄からの脱出を試みるというのはどうかね」
「実に英断。勇気ある逃避行。」
「ならばゆこう。」
「いざ、」
芝居がかった口調は、先月やった学園祭での演劇の台詞そのままだ。しいて言うならば劇当日とは配役が逆、というくらいだろうか。あの日は彼が逃亡を促す少年の役だった。
どちらも主役、どちらも脇役。僕と彼は生徒会長と副会長という学内での役割を果たす、幼き頃からの無二の友だ。
「ブルー。」
差し伸べられた友の手を取ろうと、腕を伸ばす。
ブルー。
直接、脳に響くような、その声は。どこから聞えているのだろう。
ブルー、
ブルー?
ぼわんぼわんと木霊する。
ああ、そんなに急かさないでおくれよ。
繋がった手と手が、しっかりと互いを結びつけ、僕は彼の名を呼ぼうと彼の顔を見て驚いた。
「・・・リオ?」
「はい?」
にっこり笑って不思議そうに僕と繋がった手を見せるリオは、何だか困っているようだ。とてつもなく嫌な予感がして、己の居場所を確認する事はあえてしない。とりあえず、だ。
僕は相変わらずリオと手を繋いだまま、現状を尋ねた。
「・・・・リオ、僕は今、何をしてる。」
保健室へ身体検査に行く為に廊下に並んでますけど?
「さよなら、リオ!!」
ばっと手をはらい、自由になった両腕を前後に振って駆け出す僕を、背後から呼び止めようとするリオの必死な思いが聞える。
「ブルー!!!」
すまない、リオ。君を置いていく薄情な僕を許してくれ・・・!!!
く、と涙をこらえ、僕はなんだなんだと騒ぎ出したクラスメイトの列を真っ二つに切り、階段を上へと駆け上った。背後には、リオの悲愴な「そこまで嫌いなんですか身体計測!!」という言葉に「死ぬぐらい!」と返し、今年が大学を出てすぐの新任だろう、なぜなら見るからに歳は若く頼りない(いや、それは性格だろうか。ならば訂正だ。温厚そうな、気の優しそうなというべきだろう、優男とはまさに彼の事だ)、担任シドの戸惑いに満ちまくった声が僕の名を呼んでいる。僕は脱兎の如く駆け抜け、時々、人や柱にぶつかりつつもひたすら上を目指した。
最後の扉、と思った先、ばん、と開いた向こうに広がるのは期待通りの希望に満ちた青い空。
「屋上・・・っ!!」
荒い息を何度も吐いては吸って、呼吸を整えようとするが、落ち着こうとするたびに心音が高鳴った。最後にはさ、と全身から血の気が引いて、足が重りのように動かなくなって、僕はその場にへたり込んでしまった。腕も足も、ずん、として何だか冷たい。胸の奥と肺に続く道筋だけが酷い熱さで、頭の中は空気でいっぱいだった。
しまいには声も出せなくなって、ひたすら、落ち着けと深呼吸を繰り返し、身を襲う衝撃に耐える。
冷えていく脳裏で、幻覚を見ていたようだと思い出す。繋いだ手は確かに、ジョミーのはずだった。彼は僕と同じ年で、どうやら僕らの学年はもう一年、上のようだった。彼らは生徒会長と副会長、と互いを呼び合っていたからだ。ああ、間違いない。僕は幻覚に酔っていた。
「むしろ、妄想の氾濫だな・・・。」
自嘲はようやく落ち着きを取りもどした溜息となって、口元から漏れ出でた。
いや、またやってしまった。というような諦めの念も混じっている。やってしまった。何を?分からない。思考も記憶も、ごちゃ混ぜになっている。走りすぎたようだ。運動神経は悪くはないと思うのだけれど。いかんせん、体力がない事を、はっきりと自覚している。兄を見習い、ジョギングでもして体力向上に努めるべきかもしれない。
はあ、と一息つき、尚も痙攣しそうな体を引きずり、太陽が照りつける屋上を進む。限界、と体を投げ出し、大の字に転がった。
なだらかに流れる雲が恨めしい。世界はこうまで平穏無事に時を過ぎているというのに、なぜ自分はこんな苦しく辛い状況に陥っているのだ。
「自業自得とは決して思うまい。」
思ったら負けだ。
冷や汗が額を伝った。気持ち悪い。きゅ、と手足を縮まらせて、横むけに寝返り小さくなった。
ジョミーがいた。僕は生徒会長、彼は副会長。二人で、同じ制服を着ていた。あそこは紛れもなく、昨日の入学式の日に飛び降りた図書室だ。
「確かに、彼と一緒ならば二人して、抜け出すどころか検査を前に勇気ある逃亡をしているよ。」
それも絶対なる自信をもって。理由なんかいらない。
僕らは検査から逃げなければならないのだと、大声で叫んで笑い声交じりで走るのだろう。二人で駆けたらきっと、こんなに胸が辛く痛みを訴える事はないだろう。
「最悪だ。」
僕はそのまま、意識を睡魔に投げやった。意地でも検査など、受けてやるものか。それでジョミーが呼び出されたって、かまわない。入学早々、三者面談といこうじゃないか。どんとこい。僕の隣に座る彼は、僕よりも頭二つ分も背の高い、大人のジョミーであるけれど。彼と二人ならば、不安に思う事など何も無い。
根底に流れる彼への絶対的な信頼は、上っ面にある、彼とどうにもすれ違いたくなる僕の意識を大きく覆す。弟と兄の、ほら見た事か。と偉そうに鼻で笑う幻影を見た気がした。
無性に腹が立った僕は、あまり行儀は良くないけれど、それを叱る相手もいないので、思う存分に舌打ちをする。
太陽が、僕を焼き尽くす前に、起きなければならないなと思って、僕は目を閉じた。
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