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地球へ・・・二次創作パラレル小説部屋。 青爺と鬼軍曹の二人がうふふあははな幸せを感じて欲しいだけです。



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 そわそわと、自分にしては落ち着かない気持ちだったのは事実だ。しかし、ここまで気もそぞろだったとは思わなかった。
「参ったな・・・。」
 ブルーは自他共に認める方向音痴だ。いつも兄には呆れられ、弟には馬鹿にされている。今日も、ついさっきまで共に列を成し歩いていた新しいクラスメイトの背中からちょっと窓から見えた桜の木に目を奪われていたら、これだ。
「ここはどこだろう。」
 見失った列を追いかけて、あちらこちらへとさ迷い歩いたのがいけなかったらしい。完全に、自分が校舎のどの辺りにいるのか、入学式が行われる講堂はどの方向なのか失念してしまったブルーは、参ったと辺りを見渡すも、特別教室が居並ぶ棟なのか、生徒は誰一人、教師もおらず、ぽつん、と一人寂しく市松模様の廊下に取り残されてしまった。しかし、学校の廊下が市松模様だなんて、洒落ているなあ、と感心している辺り、生来の場の雰囲気を読まない気儘さが目立つ。
彼は見事に、入学したてで迷ってしまった哀れな新入生、という事実を脳内から消し去ってしまっていた。
「これは教室内も期待できそうだな。」
 心くすぐる内装の学校であれば良いなと、彼の中で期待は膨らむばかりである。突っ立っているのも芸がないので、彼は手近な教室に入ってみる事にした。
方向音痴な人間程、無闇矢鱈と歩き回るのだからやめろ、とジョミーに注意されたのを、さっぱり忘れているブルーは、意気揚々と林檎の木に絡まる蔦を描いたガラス戸をひく。ずっしりと重い扉は、少しも音を立てずにブルーを室内へと誘った。
 分厚いカーテンがおろしてあるのか、教室内は薄暗い。すぐさま闇に慣れた目は、壁際一面が本棚である事を視認させ、高い天井まで届く本の壁は、少年を多いに圧倒した。
「すごいな、これは・・・、ジョミーなら喜んで居座りそうだ。」
 そして授業には出なかったりするのだろうな。そんな彼を僕はいつも迎えに行って、言うんだ。
「何を?」
 は、とありえない想像、もはや妄想に近い。に、自嘲して、ブルーは意識を眼前に戻す。
 一歩一歩、中央の円形の机に向かって進むブルーは、本の中に吸い込まれそうになる気がした。迫り来る世界は、どこまでも続くかのような錯覚を抱かせる。机の向こう側にも書棚は立ち並び、膨大な知識が手を招いて待っている。
「窓・・・、」
 電灯のスイッチの場所が分からず、カーテンの向こうの陽光を求め、窓へと近付く。思ったよりもかなり広い図書室は、中央に設えられた机の他にも、一人用や四人掛けの机がいくつもある。入り組んだ書棚の配置は、まるで迷路のようだ。ここをこれからの根城の一つにしようと、彼は決めた。
 ようやく辿り着いた窓の、やはり分厚かった遮光カーテンをそっと、覗ける幅だけ開き、差し込んできた太陽の強さにしばらく、目を細める。慣れてきた目を下に向けると、中庭を隔てた奥に、目指す講堂があった。目を凝らせば、生徒達が一列に並び、正面の扉から中に入っていくのが見える。
「何だ、お向かいか。」
 あそこならば自分ひとりでだって、行ける。
 目的地が分かった事で、一安心した彼は、せっかく見つけた宝箱のようなこの場所。誰にも邪魔されない今、面白い本はないだろうかと好奇心が頭をもたげてくる。とりあえず、片手でカーテンを隙間程度に開けたまま、側の棚の中身を検分する。
「・・・アルバム・か・?・・。」
 ずら、と並ぶかたそうな背表紙は、赤いベルベッドの布張りだ。年代別なのか種類別か。紺色や緑、黒の物もある。卒業アルバム、学園の歴史、などなど。タイトルは様々だが、すべて学園関係の記録らしい。
 すぐ頭に浮かんだ年号の赤い本を手に取ろうとした所で、何か外の気配が変わった気がした。何だろうと見れば、講堂へ続く生徒の列がすっかり解消されている。ちらほらと、保護者らしき人々の姿も見えた。よくよく耳を澄ませると、ぼわんぼわんと響く鈍い音もする。講堂の真横にある高い塔の天辺には、大きな釣鐘がある事に気付く。目は良いので、じっと様子を見ていれば、鐘は前後に動き、音を出している。
「いけない、式が始まる。」
 言葉の割にはあまり慌てた様子もなく、彼は伸ばした腕を引っ込め、ふと、窓から外をじっと見る。小さいながらも露台が張り出してあり、ブルーは窓の鍵を開けて(出口は違う場所にあるのだろうけど)、窓から露台へと移動する。手すりにはプランターがかかっており、チューリップの花がいくつもすらりと咲き誇っている。
ここの露台も素晴らしい。この学校は、一体誰が設計したのだろうか。
手すりから身を乗り出せば、頬をくすぐる風が気持ちよい。風に乗って、鐘の音も、随分ましに聞えたが、距離の割には遠い所で鳴っている様な気がする。
中庭を見下ろす。さして距離のない事を確認し、青々とした芝はとても柔らかそうだと観察した。講堂へ向かう人は、よもや新入生が図書室の露台から覗き見しているとは誰も思うまい。
「時間も差し迫ってきた事だし。」
 自他共に、方向音痴であると認めるブルーである。目の前にある建物へ行くのに、もはや迷う事は時間的にも自分としても許されない。というか、図書室を出て無事に中庭へ降りられるかどうかも微妙な感じだ。これ以上の時間の浪費は無駄と思えた。
「ジョミーが見てませんように。」
 見つかったらお説教が待っているに決まっている。
 プランターに足をひっかけて落してしまわないよう気をつけながら、手すりを飛び越え、空中へと身を躍らせる。瞬間、誰かがこちらを指差し、大きな口を開けたが、何と言ったのかは聞えなかった。ただ、気持ち良い。風を受け、体が落下していく。
身に馴染んだ感触に、今日は良い風だとだけ思って、何事もなかったかのように澄ました顔で、中庭へと降り立った。着地は成功、思ったとおり、芝は柔らかく足へと掛かる衝撃を弱めてくれる。
「ここに入って良かった。」
 騒ぎが大きくならないうちにと、ブルーは講堂目指して駆け出した。
 それにしても、今日は良く走る日だ。
 
 
 
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