地球へ・・・二次創作パラレル小説部屋。
青爺と鬼軍曹の二人がうふふあははな幸せを感じて欲しいだけです。
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※随時更新
基本ジョミブル風味。その他、キースとシロエ。トォニィとシロエ、薄いハレブルものなど等。全体的にカプ要素は薄いです。
単発小説
・紅い月①、②(ジョミブル。現代パロ)
・平行世界 裏、表(ジョミブル。ハレブル。アニメの時間軸ではあるがパラレル)
・ジョミーさんのやりたい放題(ジョミブル。アニメ時間軸)
・老人のささやかな主張をきけ、若人よ(仮題)~テラへゆきたいッッッ☆!!!~(どうした、ソルジャー。ジョミブル。アニメ軸ではあるがパラレル)
続き物
・テラ最終話後の甚だしい妄想①~③(ようするに、みんな生きてるよ話)
・息子ジョミーと父親ブルーのハートウォーミングふるさとライフストーリィ(笑)。
その1
その2
・シャングリラ学園パロもどき(年上ジョミ年下ブル。兄弟・擬似家族。ブルもジョミも妄想甚だしい。)
第一話「入学式」①~⑤
第二話「検査」①~④
第三話「転校生」①、②、③、
・しろいせかい(ジョミブル、キースとシロエ、トォニィその他オールキャラ予定。兄弟設定ありの現代パロ)
序章①~③
基本ジョミブル風味。その他、キースとシロエ。トォニィとシロエ、薄いハレブルものなど等。全体的にカプ要素は薄いです。
単発小説
・紅い月①、②(ジョミブル。現代パロ)
・平行世界 裏、表(ジョミブル。ハレブル。アニメの時間軸ではあるがパラレル)
・ジョミーさんのやりたい放題(ジョミブル。アニメ時間軸)
・老人のささやかな主張をきけ、若人よ(仮題)~テラへゆきたいッッッ☆!!!~(どうした、ソルジャー。ジョミブル。アニメ軸ではあるがパラレル)
続き物
・テラ最終話後の甚だしい妄想①~③(ようするに、みんな生きてるよ話)
・息子ジョミーと父親ブルーのハートウォーミングふるさとライフストーリィ(笑)。
その1
その2
・シャングリラ学園パロもどき(年上ジョミ年下ブル。兄弟・擬似家族。ブルもジョミも妄想甚だしい。)
第一話「入学式」①~⑤
第二話「検査」①~④
第三話「転校生」①、②、③、
・しろいせかい(ジョミブル、キースとシロエ、トォニィその他オールキャラ予定。兄弟設定ありの現代パロ)
序章①~③
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何度も立ったり座ったり、誰かも分からぬお偉いさんに頭を下げ、嬉しくも無いしかもやたらと長い祝辞を頂戴してはまた頭を下げる。私立校の中でも、イロモノ校として特に有名なシャングリラ学園も、そのお決まりの流れは変わらないようだ、とブルーは欠伸をかみ殺して時が過ぎるのを待つ。
ただ、ひたすらに無為な時間を過ごさなくても良かったのは、こちらを見てはにっこり穏やかに微笑む、良き友・リオのおかげだろう。この短時間の中で、彼とはもう長年の付き合いではないかと思える程、親睦を深める事が出来た。何せ、不思議な事に彼とは目を見ただけで意思疎通が出来てしまうのだ。始めは彼の指が手の平に文字を書く事で言葉を交わしていたのだが、理事長の話辺りでそれももう、目を見ただけで何となく、彼が何を言いたいのかが分かるようになって、あれよという間に無言に近い雄弁な会話が成り立っていた。勿論、自分は小声で言語を発するが、それが不要となるのも遠い未来ではあるまい。
これ程までに、他人と心を通わせる事が出来るのかと驚くと同時に、なぜかとても懐かしい思いで胸が締め付けられる。何だろう、と胸に手をあててみても、とく、と己の鼓動が響いてくるだけで、答えは何も出はしない。けれど、その懐かしさは酷く温かく、そして心地良い物で、もしかしたらこの調子で自分は誰とでも心を通わせ、友になれてしまうのではないかという錯覚をおこしてしまいそうになる。
ジョミーの心も、今、会えばよく分かるかもしれない。
心によぎった考えは、ふ、と目元を和らげたリオに気付かれてしまったらしい。そうだ、リオとて、自分と同じ感触を得て、驚いているに違いない。聞いてみようか、なぜ、僕らはこうまでお互いの心を思いやって通じ合えるのだろうか、と。
「答えは聞いてないね。」
微笑む友の顔に、同じように笑みを返す。
そうだ、僕らは友だ。それで良い。
「ねえ、リオ。僕の家には居候がいてね。ジョミーというんだ。僕が小さい頃から一緒に住んでいてね。僕の兄も弟も、もちろん僕自身も、彼の事は家族同然に思っている、大切な人なんだ。それはジョミーも同じだといつも言ってくれる。そう、僕らは家族なんだ。・・・・でも、僕はどうしてだろうか。彼への親愛の情の片隅に、どうにも、彼に対して苦手というか。複雑な思いを抱いてる。そう、きっと僕はジョミーが良く分からないんだ。それが恐いんだろう。」
口からは吐息ばかりが洩れ出で、言葉らしい言葉はおそらく、誰にも聞き取れなかっただろう。しかし、そんな心配を僕らの間でする必要はない。
「ブルー、ジョミーは今日、来ていらっしゃるんですか?」
リオの朗らかな思いを、耳といわず全てで感受する。リオの声は胸によく馴染む。
「ああ、来ているよ。一目で分かるだろう。」
「見なくとも、どこに座っているかも分かりそうです。」
おかしそうにそう言うリオは、目線であそこでしょう?と問うてくる。ああ、そうだよ。と、同じように目をそちらへ向け、僕らは秘密を共有しあった者同士、堪らない、と笑った。
ジョミーは保護者席の最前列に優雅に足を組んで座っている。その気配は圧倒的で、他者の足元の影ですら、彼の何もかもを包み込まんとする思いの下にひれ伏しているようだ。
彼の心はこれ以上なく喜びに満ち溢れているけれど、少々、機嫌を崩してきているようだった。この講堂を覆う彼の思いは、端々につまらない大人たちの話を草々にやめろと強く念じる気配が色濃く沈んでいる。それが波となり、かれこれ十分以上も長々と話を垂れ流しているこの学園の理事の一人を今まさに、襲わんとしているのが見えた。
「あの来賓の方、気の毒ですね。」
揶揄するかのようにそう呟き、リオは瞬き一つ。ぱち、と瞼を閉じる音が聞えた。
「希望に満ち満ちた前途ある若者達の心をここまで萎えさせているのだ。良い気味さ。」
「ご愁傷様です。」
ぱち、ぱち。二度、続けて瞬いて、この後の予定を立てることにした。確か今日は、入学式の後はもう、なにもなかったはずだ。教室に入り明日から始まる高校生活の心得を担任から聞かされるだけのはず。すぐに帰宅できるだろう。
家へ送られてきたこの一週間の予定表には、明日は身体検査の文字が記されていた。
「嫌だなあ。」
検査はどうも苦手だった。真っ白い、この軟弱な体を人前に晒すという事も、いくつもの検査を一列に並び、受けるという事も。あの、何とも言えない皆のそわそわした感も、全てが自分にはどうにも苦々しく思えてしょうがない。何より、面倒だ。貴重な一日を、検査だけに費やすなど、時間の浪費ではないだろうか。健康診断など、いざと言う時はあてにならない。
「・・・それはちょっと違うんじゃないかと、ブルー。」
「そうかい?でも、自分の体は自分が一番良く分かっているはずだよ。わざわざ他人に見せる事も無い。」
「余程、嫌いなんですねえ。」
「ああ。そうだよ。」
「でも、学校行事ですからねえ。」
「・・・年中行事を取り決めているのは先生方、か・・・・。」
参列する教師陣を眺め、ふむ、と思案にふけはじめる。直に、入学式は終わりを告げるだろうけれど、揺らぐ思考は弾けとんだ後も、しばらく僕を明るく悩ませてくれそうだ。
突然の急病人発生の為、閉式となるまで後数秒。
僕がぽん、と手を打つのも、もうまもなく。続
どうもこの学園の生徒は皆、自由人すぎるきらいがある。故に僕はいつも怒鳴っては困ってばかりだ。
「ジョミーは賑やかだね。」
「五月蝿いですよ、アナタまた、生徒会室でお茶飲んでるんですか。いるなら仕事を手伝ってくださいよ」
ついさっきまで、青の間と呼ばれるこの部屋で、フィシスを相手に今年は厄年だろうかと、外れた馬券を片手に愚痴っていた彼は、僕を見てにっこり笑う。彼の突然、ころりと変わる態度にはもう随分となれて、彼とは長年の友人ではないかと、学年が違うというのに今の砕けた関係は喜ぶべき事だが彼が相手だとどうしてか、げっそりしてしまう。
沈痛な面持ちの彼を前に、フィシスはお待ちくださいと一言残して、カードを取りに自分の教室へ行ってしまった。彼女が手元にカードを用意していないなんて、珍しい事もあるものだ。
「僕はもう、ソルジャーじゃない。ただの、」
なら静かにしていてくださいよ。
「ここにいるのは、怒らないのかい?ジョミー。」
だからそんなすぐに、怒ったりしませんよ。いいですか、アナタ達が大人しくしていてくれば、僕だってこんなに腹筋やら喉やらを使ったりしなくて良いんですよ。これで僕の声が枯れてしまったりしたら、アナタのせいですからね。
「それはいけない。ジョミー。喉を診せてごらん。」
ちょっと。何するんですか。
「ほら、口を開けて。」
やめてくださいよ、子供じゃあるまいし。そう思うなら、少しは自重してくださいよ。
「・・・。出かけてくる。」
今日は販売所はお休みですよ確か。
「ジョミー。」
何ですか、その手は。
「お小遣いをくれないか。必要経費だよ。」
馬鹿ですかアナタ!今月はもう駄目だって言ったばかりでしょう昨日!
「だって。」
だってじゃありません!おいリオ、ビタ一文出すなよ!
「ソルジャー、ちょっと厳しくは」
ない!
ほら、そんな風にすごすごと背中に哀愁を漂わせてたって、彼はうざったいくらい、とても元気だ。落ち込んだ振りをしながら生徒会室を出て行く彼は、入学式に見た凛とした雰囲気は一切ない、普通の一般生徒だ。もしかして僕も引退したらああなってしまうのだろうか、とちょっと自分の未来を暗く思ってしまったが、彼の場合はあまりにも普段と生徒会長であった時の差が激しいのでは、と結論に至ってその事を考えるのはもうやめにした。きりがない。
再び、僕は目の前の書類に目をやろうと、なぜこんなにもここの学園は生徒会長がする仕事が多いのだろうか、これではまるで僕が中心となってこの学園を動かしているんじゃないかと思ってしまう。いや、そうなのだけれど。中学生の時はこんなにも生徒会は忙しくしていただろうか。
書類に判子を捺そうと、ふ、と視界に意識をやった時、僕は思わず手から力が抜けてしまった。ころん、と判子が書類に落ちて、擦れた朱色が黒い文字を汚す。
口の中がからからになる。喉が引きつった。
じ、と生徒会室の扉から僕を見ていた彼が、ふ、と笑む。そこまでは良かった。同じように笑みを返せば良いだけだ。さっさとどこへでも、いってらっしゃいと言うだけだ。だが忘れるな、彼はあざとい。彼の性格は短い間であるが決して真っ当なものではないと体感している。癖が強すぎる。とんだ食わせ者だ。僕は身構えた。
扉を開けて部屋を出るその時、彼はほうと気息を吐いて、眼を伏せる。
一瞬にして、彼は儚い雪兎となる。幼い記憶が蘇る。何度も作って、何度も消えた。手が真っ赤になった。毛糸の手袋はとっくに雪でぐっしょり濡れていて、役には立たない。雪兎を何匹も並べて、嬉しがっても彼らはいなくなってしまう。儚い存在。それは僕を多いに戸惑わせ、不安にさせる。
僕は彼に意識を集中せざるを得なくなる。消えてしまわないか、彼はそこに居るのかと。僕に出来るのは彼に声をかけ、それを確認するだけ。彼の側へ行き、その手を握って手の温かさを感じ取る事。ほら、僕は無意識でまたやってしまう。
「外へ行くなら、今日は風が冷たいです。上着は羽織っていって下さい。」
「うん、行ってくるよジョミー。」
アナタは分かってやっている。自分のその表情が、僕を恐怖に貶める事を知っている。そうに決まっている。
僕が声をかけたら満面の笑みで彼は答える。僕はここにいるよ、と。声なき思いはじわりじわりと僕に届き、僕を満たす。
彼は生徒会室を出て行った。残された僕は、汚してしまった書類を書記であるリオに見せ、ごめん、と小さく呟く。
彼はぴょんぴょん跳ねて、廊下を歩く。彼の足音は軽いくせに、よく響いた。木造建築の校舎が彼の足音すべてに反応しているようだ。
「まったく。今度は何を買い込むつもりだったのか。馬券か?宝くじはもう終わったよな、リオ。」
口から出た声は、呆れ返っている。
「ええと、そうですね。今期はもう、昨日でおしまいでした。今日は競馬も、競輪も、競艇もありませんよ。何でしょう。また元締めでもやって、賭けオセロですかね。」
「笑い事じゃないよ、リオ。巻き上げられたといって学年関係なく生徒に泣きつかれるのは僕なんだ。」
「ソルジャーは全校生徒に愛されてますから」
「それ、どっちの事。」
僕は、もう分からない。
「どっちでも良いけど。」
リオが苦笑うのは、いつもの事だ。
僕は判子を捺そうとして、また落してしまう。今度は床の上だ。仕方ないと、僕は不精にも椅子に座ったまま屈みこんで、机の下に落ちた判子を拾うべく、腕を伸ばす。と、ぐらり。大きく体が前のめりによろけた。ソルジャー!!と叫ぶリオの声がする。危ない。このままでは床に激突してしまう。ほら、もうそこに。僕はぎゅ、と衝撃に備えて目を閉じた。
はた、と気がつけば僕の耳にはとてもではないが美しいとは思えない声が木霊する。米神を指で押して、はっきりしない意識にぐらぐらする頭を何とかしようと考える。
僕は座っている。パイプ椅子だ。そこで僕は自分は制服ではなくスーツを着ている事に気がついた。しかも足はスリッパだ。よく知った学園の名前が刻印されている。鼻先で空気が甘く香った。そっと両隣を見れば、妙齢の女性が嬉しそうな様子で座っている。ちらちらとこちらに視線を感じるが、それは隣からも後ろからもだ。僕は大勢と一緒に座っている。
前を見れば、少し離れた場所にずらりと並ぶ黒い背中。そうだ、今朝も見た黒い背中。あれはブルー。ああ、思い出した。僕は今、ブルーの入学式に参列しているんだった。
幼い頃から見てきたブルー。とうとう、彼も高校生だ。早いものだ。彼はどこに座っているのだろう。彼は良く目立つ。容姿が優れているとか、そうではない。どこにいたって、彼はここにいるよと何かシグナルを発しているのだ。それは彼だけではなく、現在、自分が居候している彼の家の全員、つまりは彼の兄弟すべてがそうだった。ブルーの兄も、末の弟も、皆、自分はここにいるよと全身で思いを伝えてくれる。末っ子など、グラン・パ大好きなどと言葉で言わなくても喧しく慕ってくれる。嬉しい事だ。
ブルーは末っ子のトォニィに比べて、意思表示が鈍い。というよりも、うまく遮蔽している、という感じだろうか。それは年齢の事もあるだろうし、一番上の子にいたっては何を考えているのかさっぱり分からない。性格もあるだろう。ブルーは驚く程、苛烈な部分を持ってはいるが、それを表出すことも無いし他の感情だって、もっと出しても良いだろうに、いつも年の割には落ち着いた調子を守っている。大人びている、といえば聞えは良いが、年頃の少年であることを思えば、ちょっと心配になってしまう。感情を押し殺しているとまでは言わないけれど。どこかで爆発しなければ良いと、パッチもんの保護者は思うのだ。どうすれば、ブルーの心が分かるだろうか。自分が人の心の機微に疎いとは思わない。しかし、ブルーは難解すぎるのも事実だ。
早く、終わってくれないだろうか。
ブルーの入学式に出席できる喜びは、長々と、居眠りまでしてしまう来賓の祝辞のせいで、徐々に苛立ちへと変わってきてしまっている。僕は早く、ぴっかぴかの新入生姿のブルーを写真に収め、ついでに一緒に写真をとって、それをフィシスに見せびらかしたいのだ。帰ってお祝いをしなければならない。入学祝に進級祝いに。玄関回りは昨日、掃除をして奇麗だし、部屋の飾りつけはトォニィが喜んでやりそうだ。今夜はご馳走だ。夜に備えてお昼は軽くすませよう。ああ、そうだ。トォニィを迎えに行って、三人で昼は外でとっても良いな。
楽しい予定が次々に立ち上がっていく。その為にはさっさと、入学式が先へ進まねばならない。
「あー。」
僕の声に、隣のご婦人が同意を示してくれているかのように、何度も頷いた。
④へ
彼は兎が人へ変化した生き物なのだろうか、それも雪兎だ。そう入学式の時、生徒会長として壇上で挨拶をした彼を見て、僕は昔、幼い頃に作った雪兎を思い出した。
真っ赤な瞳に、真白い肌。光を帯び輝く髪は白銀。兎みたいに、ふわふわとした触り心地なのではないか。陽光は彼の髪をきらきらと装飾するが、美しい白銀の髪は何だか冷たそうだとも思った。
それはきっと彼が雪兎だからだ。ならば耳は?僕はあの時、きちんと耳も葉っぱで作った。目は言うまでもなく、南天の実だ。赤く、丸く可愛らしい。耳は、ぎざぎざの葉っぱにした。存在を誇張する、つやと光る緑の耳。では彼は。彼の耳を覆うのは補聴器。しかも旧型。古臭いそれは、きっと聞える音も悪いし何より言葉は悪いが、不恰好だった。だが、自然とそれが馴染んでしまうのだから美形は得だな、と思った。
雪兎は凛とした様子で全校生徒を前に、台本もなしにすらすらと自分の考えを述べる。耳に心地良い声は、どこか消え入りそうな彼を、その意志の強い瞳と共に強くこの世に押し留める。光に透けて形をゆがませる雪兎とは違う彼。しかし、ふと目線を落した瞬間、一気に儚さが漂う彼は、春になれば溶けて目の前から消えていなくなってしまう、そんな不安定な存在なのではなかろうかと思ってしまう。
溶けてしまった雪兎を前に、僕は泣いてしまった。後から何匹も作ったけれど、作るたびに訪れる別れは悲しく、あっという間だ。冷凍庫に入れても、最後には溶けていなくなってしまう。彼もそうなのではないかと、赤い瞳が睫の影に隠れてしまう事に、自分は、彼がいなくなってしまうと、その事にこれ以上ない恐怖を感じた。
けれどそれも、彼と面と向かって話をしてみて、がらがらと無残にも崩れ去ってしまう。それは気のせいと呼ばれる類の恐怖だ。彼はこれ以上なく頑丈で、とても儚げに散ってしまうような存在ではなかった。雪兎はしょせん、過去の思い出でしかない。僕は彼を雪兎であるなどと思った事がおかしくって、悔しくって、大きくな声を出しては、よく彼を怒鳴りつけてしまう。もっともそれは、彼の行動も原因の一つだ。はっきりいって彼は性質が悪い。
入学早々の僕を生徒会室へ拉致るわ、生徒会長、否、「そるじゃあ(ソルジャーであると、後からリオに訂正された)」を何も知らない新入生に突然、何の前触れもなく譲るやら、ギャンブルを始めとする勝負事への執着心にはもう勘弁して下さいと言いたい。遊ぶ事が大好きで、暇さえあれば生徒会室でお茶をすすり宝くじを買いに行き、校内を散歩したり校内で賭け事をやりだしたり校内で育てた野菜で漬物をつけたり校内で怪しげな集会を始めたり。だらだらとご尤もなお声でご尤もな説教を垂らしちょっと事情が悪くなるとすぐに死ぬ、胸が苦しいもう僕は駄目だ後は任せたジョミーと倒れる振りまでする。いいや、実際に倒れる芸当までしてくれる。見事だった。彼の倒れる様は実に素晴らしい。思わず抱きとめて涙を流してしまいそうになる。彼はとても元気だ。とても存在感のある、とても安定した存在だった。
それでも、時々、やはり彼は雪兎だと思ってしまう。
ぱたりと音を立てるんじゃないかと思われる長い睫が、瞼が落ちると一緒に伏せられるその刹那。彼は普段のはちゃめちゃ振りを奥へひた隠して、泣きだしてしまいそうな程、不安定で儚い存在となる。
一体、どちらなのだ。どっちが本当の彼なのだろうかと、僕は悩み始めてしまう。彼ではないけれど、どちらなのだ、フィシス!と言いたくなる。おそらく、彼女はカードを片手にお待ち下さいソルジャーと言ってくれるだろう。フィシス、遅いんだよそれでは。突っ込んだら最後、彼女の呪いを身に受けての高校生活はまっこと、怖しく苦しい。
そういえば、転校生のキースは彼女からの呪いをどうしたのだろう。フィシスの事だ。いや、仮にも彼女は先輩だからフィシス先輩、と呼ぶべきなのだろうか。そうなると、彼はどうなる。先輩、それとも先代か。似合わない。とてもじゃないが、二人とも、そんな風には思えないし呼びたくない。やはりここは名前で呼ぶべきなのだろう。
転校生であるキース・アニアンは転入してすぐに問題を起こしてくれた。彼は頭は良いはずなのに、なんであんなにアホなのだろうか。それをいうなら彼とてそうなのだろうけれども。③へ
平行世界・表
「ブルーさんのやりたい放題・パラレルワールドでこんばんは。」
「ソルジャー・ブルー、あなたはまた!何度言ったら分かるんですか。ここで水遊びはなさらないよう、以前あれ程、申し上げたはずです。」
はた、と意識がしっかりして見つけた顔は、よく見慣れた長き知己のもの。浅黒い肌が特徴的な彼は、そういえばジョミーと同じ金の髪をしていたとぼんやり思う。
「ああ、ハーレイ。あの時の君は、可愛かったね。」
必死になってしまって。ちょっと足が攣って溺れかけただけじゃないか。それなのに、大事なんかにしてしまうから。シャングリラ中に、君の悲鳴が木霊して、フィシスにはあの後、随分と怒られてしまったんだぞ。知っているか。彼女は怒るととても恐いんだ。
沈めていた足をゆっくり引き上げ、指先で水面を蹴り上げる。
「ブルー!」
けれども、ジョミーの髪の色はもっと美しくて若々しい。
落ちついた風合いを持つ友の髪も嫌いではないけれど、自分はジョミーの髪を好む。
「ブルー?」
「ウィリアム、腰が抜けてしまったんだ。抱き上げてくれ。」
「年甲斐もなく、水遊び等なさるから・・・・。」
「何、ちょっとした息抜きだよ。」
腕をあげ、ほらほら、と相手を招いてにっこり笑う。
「・・・今回だけですよ、」
「次もよろしく頼む。」
肩と膝裏に腕を回し、掛け声一つ出さずに頼もしい友は、自分をいとも簡単に抱き上げた。さらりと水から引き抜かれるその時、僅かな痛みと水の離れる寂しさに、そっと吐息をはく。足先からは名残とばかりに、雫が滴り落ちる。ハーレイの足元に散らばる黒いシミが、青の間の床を点々と濡らしていた。
「・・・直に、乾いて消えてしまうさ。」
永遠に広がるとも思えてしまう、青の間の水面をじ、と見つめ、ブルーが小さく呟いた。あまりに胸が締め付けられるようなその声音に、ハーレイは自分達の長であり、良き友である、時には弟とも兄とも息子とも思えてしまう少年の姿をした彼の、真っ青に浮かびあがる銀の髪を見下ろした。
「ハーレイ、信じているよ。」
「どうなさいました。」
「直、獅子の目覚めが訪れる。」
「獅子?」
「金の髪をなびかせて、強く、気高い心を持った清き獅子。彼は美しいよ。」
「あなたがご執心のジョミー、ですか。」
「そうだ。彼は素晴らしい戦士になる。」
「あなた以上だとおっしゃいますか。」
「ああ、そうだ。僕以上だ。」
「私はあなたを信頼するまでだ。」
「僕と、彼の推薦だからね。間違いはない。」
「彼とは?」
「違う世界のジョミーだ。ウィリアム、君にだけ特別に教えてあげるよ。今後、もし僕が彼に会いにいけなくなった時、君が僕の名代として彼への言伝を。」
「ソルジャー・ブルー。私はいつだってあなたを信頼してきた。しかし、あなたに騙され遊ばれるのは一人の友として、断固として拒否する。」
「違うよ。相変わらず君は真面目だな。」
「ブルー。」
「秘密の抜け道は、そこだ。行き方は簡単。身を投じればすぐだ。彼が引き上げてくれる」
「そうでしょうね。すぐに儚げな存在となって、皆に発見されるでしょうね。リオたち、若者らが一丸となって引き上げてくれる事でしょう。」
「冗談ではない。ただし、年に一度。」
「一度すら逝きたくありませんよ。」
「ハーレイ。人の話は聴くものだ。」
「ブルー、あなた、一度だってちゃんと私の話を聴いてくれた事がありますか。思念体ならまだしも実体でジョミーの様子を見に行くのは自殺行為です。即刻、おやめ下さい。私の寿命を縮まらせたいんですか。」
「まったく。冗談が通じない奴はつまらないな。」
「ブルー!!!」
嘘か真か、何れの人が、知る事ぞ。
にまりと紅玉の眼を笑ませ、思うはただ愛しい君の事。
今度は左目も舐め取ってしまおう。
「さぞや、美味いに違いない。」
さて、水面に映る顔は、一体誰の顔であろうか。
そして、おしまい。
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