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地球へ・・・二次創作パラレル小説部屋。 青爺と鬼軍曹の二人がうふふあははな幸せを感じて欲しいだけです。



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 どうもこの学園の生徒は皆、自由人すぎるきらいがある。故に僕はいつも怒鳴っては困ってばかりだ。
「ジョミーは賑やかだね。」
「五月蝿いですよ、アナタまた、生徒会室でお茶飲んでるんですか。いるなら仕事を手伝ってくださいよ」
 ついさっきまで、青の間と呼ばれるこの部屋で、フィシスを相手に今年は厄年だろうかと、外れた馬券を片手に愚痴っていた彼は、僕を見てにっこり笑う。彼の突然、ころりと変わる態度にはもう随分となれて、彼とは長年の友人ではないかと、学年が違うというのに今の砕けた関係は喜ぶべき事だが彼が相手だとどうしてか、げっそりしてしまう。
沈痛な面持ちの彼を前に、フィシスはお待ちくださいと一言残して、カードを取りに自分の教室へ行ってしまった。彼女が手元にカードを用意していないなんて、珍しい事もあるものだ。
「僕はもう、ソルジャーじゃない。ただの、」
 なら静かにしていてくださいよ。
「ここにいるのは、怒らないのかい?ジョミー。」
 だからそんなすぐに、怒ったりしませんよ。いいですか、アナタ達が大人しくしていてくれば、僕だってこんなに腹筋やら喉やらを使ったりしなくて良いんですよ。これで僕の声が枯れてしまったりしたら、アナタのせいですからね。
「それはいけない。ジョミー。喉を診せてごらん。」
 ちょっと。何するんですか。
「ほら、口を開けて。」
 やめてくださいよ、子供じゃあるまいし。そう思うなら、少しは自重してくださいよ。
「・・・。出かけてくる。」
 今日は販売所はお休みですよ確か。
「ジョミー。」
 何ですか、その手は。
「お小遣いをくれないか。必要経費だよ。」
 馬鹿ですかアナタ!今月はもう駄目だって言ったばかりでしょう昨日!
「だって。」
 だってじゃありません!おいリオ、ビタ一文出すなよ!
「ソルジャー、ちょっと厳しくは」
 ない!
 ほら、そんな風にすごすごと背中に哀愁を漂わせてたって、彼はうざったいくらい、とても元気だ。落ち込んだ振りをしながら生徒会室を出て行く彼は、入学式に見た凛とした雰囲気は一切ない、普通の一般生徒だ。もしかして僕も引退したらああなってしまうのだろうか、とちょっと自分の未来を暗く思ってしまったが、彼の場合はあまりにも普段と生徒会長であった時の差が激しいのでは、と結論に至ってその事を考えるのはもうやめにした。きりがない。
 再び、僕は目の前の書類に目をやろうと、なぜこんなにもここの学園は生徒会長がする仕事が多いのだろうか、これではまるで僕が中心となってこの学園を動かしているんじゃないかと思ってしまう。いや、そうなのだけれど。中学生の時はこんなにも生徒会は忙しくしていただろうか。
 書類に判子を捺そうと、ふ、と視界に意識をやった時、僕は思わず手から力が抜けてしまった。ころん、と判子が書類に落ちて、擦れた朱色が黒い文字を汚す。
 口の中がからからになる。喉が引きつった。
 じ、と生徒会室の扉から僕を見ていた彼が、ふ、と笑む。そこまでは良かった。同じように笑みを返せば良いだけだ。さっさとどこへでも、いってらっしゃいと言うだけだ。だが忘れるな、彼はあざとい。彼の性格は短い間であるが決して真っ当なものではないと体感している。癖が強すぎる。とんだ食わせ者だ。僕は身構えた。
扉を開けて部屋を出るその時、彼はほうと気息を吐いて、眼を伏せる。
一瞬にして、彼は儚い雪兎となる。幼い記憶が蘇る。何度も作って、何度も消えた。手が真っ赤になった。毛糸の手袋はとっくに雪でぐっしょり濡れていて、役には立たない。雪兎を何匹も並べて、嬉しがっても彼らはいなくなってしまう。儚い存在。それは僕を多いに戸惑わせ、不安にさせる。
僕は彼に意識を集中せざるを得なくなる。消えてしまわないか、彼はそこに居るのかと。僕に出来るのは彼に声をかけ、それを確認するだけ。彼の側へ行き、その手を握って手の温かさを感じ取る事。ほら、僕は無意識でまたやってしまう。
「外へ行くなら、今日は風が冷たいです。上着は羽織っていって下さい。」
「うん、行ってくるよジョミー。」
 アナタは分かってやっている。自分のその表情が、僕を恐怖に貶める事を知っている。そうに決まっている。
僕が声をかけたら満面の笑みで彼は答える。僕はここにいるよ、と。声なき思いはじわりじわりと僕に届き、僕を満たす。
 彼は生徒会室を出て行った。残された僕は、汚してしまった書類を書記であるリオに見せ、ごめん、と小さく呟く。
 彼はぴょんぴょん跳ねて、廊下を歩く。彼の足音は軽いくせに、よく響いた。木造建築の校舎が彼の足音すべてに反応しているようだ。
「まったく。今度は何を買い込むつもりだったのか。馬券か?宝くじはもう終わったよな、リオ。」
 口から出た声は、呆れ返っている。
「ええと、そうですね。今期はもう、昨日でおしまいでした。今日は競馬も、競輪も、競艇もありませんよ。何でしょう。また元締めでもやって、賭けオセロですかね。」
「笑い事じゃないよ、リオ。巻き上げられたといって学年関係なく生徒に泣きつかれるのは僕なんだ。」
「ソルジャーは全校生徒に愛されてますから」
「それ、どっちの事。」
 僕は、もう分からない。
「どっちでも良いけど。」
 リオが苦笑うのは、いつもの事だ。
 僕は判子を捺そうとして、また落してしまう。今度は床の上だ。仕方ないと、僕は不精にも椅子に座ったまま屈みこんで、机の下に落ちた判子を拾うべく、腕を伸ばす。と、ぐらり。大きく体が前のめりによろけた。ソルジャー!!と叫ぶリオの声がする。危ない。このままでは床に激突してしまう。ほら、もうそこに。僕はぎゅ、と衝撃に備えて目を閉じた。



 はた、と気がつけば僕の耳にはとてもではないが美しいとは思えない声が木霊する。米神を指で押して、はっきりしない意識にぐらぐらする頭を何とかしようと考える。
 僕は座っている。パイプ椅子だ。そこで僕は自分は制服ではなくスーツを着ている事に気がついた。しかも足はスリッパだ。よく知った学園の名前が刻印されている。鼻先で空気が甘く香った。そっと両隣を見れば、妙齢の女性が嬉しそうな様子で座っている。ちらちらとこちらに視線を感じるが、それは隣からも後ろからもだ。僕は大勢と一緒に座っている。
前を見れば、少し離れた場所にずらりと並ぶ黒い背中。そうだ、今朝も見た黒い背中。あれはブルー。ああ、思い出した。僕は今、ブルーの入学式に参列しているんだった。
 幼い頃から見てきたブルー。とうとう、彼も高校生だ。早いものだ。彼はどこに座っているのだろう。彼は良く目立つ。容姿が優れているとか、そうではない。どこにいたって、彼はここにいるよと何かシグナルを発しているのだ。それは彼だけではなく、現在、自分が居候している彼の家の全員、つまりは彼の兄弟すべてがそうだった。ブルーの兄も、末の弟も、皆、自分はここにいるよと全身で思いを伝えてくれる。末っ子など、グラン・パ大好きなどと言葉で言わなくても喧しく慕ってくれる。嬉しい事だ。
 ブルーは末っ子のトォニィに比べて、意思表示が鈍い。というよりも、うまく遮蔽している、という感じだろうか。それは年齢の事もあるだろうし、一番上の子にいたっては何を考えているのかさっぱり分からない。性格もあるだろう。ブルーは驚く程、苛烈な部分を持ってはいるが、それを表出すことも無いし他の感情だって、もっと出しても良いだろうに、いつも年の割には落ち着いた調子を守っている。大人びている、といえば聞えは良いが、年頃の少年であることを思えば、ちょっと心配になってしまう。感情を押し殺しているとまでは言わないけれど。どこかで爆発しなければ良いと、パッチもんの保護者は思うのだ。どうすれば、ブルーの心が分かるだろうか。自分が人の心の機微に疎いとは思わない。しかし、ブルーは難解すぎるのも事実だ。
 早く、終わってくれないだろうか。
 ブルーの入学式に出席できる喜びは、長々と、居眠りまでしてしまう来賓の祝辞のせいで、徐々に苛立ちへと変わってきてしまっている。僕は早く、ぴっかぴかの新入生姿のブルーを写真に収め、ついでに一緒に写真をとって、それをフィシスに見せびらかしたいのだ。帰ってお祝いをしなければならない。入学祝に進級祝いに。玄関回りは昨日、掃除をして奇麗だし、部屋の飾りつけはトォニィが喜んでやりそうだ。今夜はご馳走だ。夜に備えてお昼は軽くすませよう。ああ、そうだ。トォニィを迎えに行って、三人で昼は外でとっても良いな。
 楽しい予定が次々に立ち上がっていく。その為にはさっさと、入学式が先へ進まねばならない。
「あー。」
 僕の声に、隣のご婦人が同意を示してくれているかのように、何度も頷いた。
 





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