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地球へ・・・二次創作パラレル小説部屋。 青爺と鬼軍曹の二人がうふふあははな幸せを感じて欲しいだけです。



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平行世界・裏


「ブルーさんのやりたい放題・パラレルワールドでこんばんは。」



 
 にまりと笑う、水面の顔。僕はそれをバケモノと思う。
 ほくそえむそれの顔は、造作が素晴らしいだけに、ぞっとさせるものがある。
 赤い瞳がきゅる、と視点を定め、食い破らんかとも思う気迫でこちらと目が合えば、うっそりと笑む。
 凄絶の美を前に、僕は生唾を飲み込むしか出来ない。
「それがお前の本性か、バケモノめ」
 僕がそう呼べば、それは待っていたとばかりに苛烈な瞳をふ、と和らげてくるのだから堪らない。
ほだされるな。
 厳しく、言い聞かせては見るけれど、僕は元々、これの顔が好きなのだ。忌々しいと奥歯を噛み締める程、僕はこいつが好きなのだ。
 今日も僕は、ああ、憎らしいと呟きながら、水面へ映るそれへ腕を差し伸べる。
「遅いよ、ジョミー。」
 獲物を仕留めた獣の瞳は、充足感に満たされて、うっとり蕩け落ちてしまうかというくらい、瑞々しい。
「ああ、そうです。いとしいアナタ。」
「どうしたんだい、今夜はえらく素直じゃないか。」
 鈴が転がるような、軽やかな笑い声をその整った口の奥から零すそれは、先程、洗い流したばかりの刹那の無垢だったその瞳に、鬱蒼とした色を潜らせた眼差しで、己を掬い上げる僕を下からねめつける。
「従順な君は、悪くないがつまらないね。」
 僕は腕に力を込めて、月の光で淡く光る水面の底からそれを引き上げた。
「この性悪、」
 ざざば、びしゃり。
 ぴちゃん、
 水の滴る音は、そのままバケモノである彼を、ブルー、と言う名の僕の思い人へとすげ替える。
 ふるふると首を左右に動かし、文字通り水鏡から現れた月夜の人は、にっこり僕に微笑む。すると彼は幼子のように尻餅をついた僕の膝に身を預け、濡れて黒くなっていく僕の、ズボンの膝小僧を撫でた。
「伊達に年を重ねてはいないよ。」
 年寄りは皆、狡猾だ。
 そう笑う彼は、どこまでも若く美しい。
「青臭いガキは、振り回されてばかりですよ。」
「迷惑をかけて、本当にすまないと思っている。」
 彼の吐く殊勝な台詞が、聞き慣れた僕の耳には空々しく木霊する。
儚げに目を伏せる彼に、僕は濡れそぼった彼の髪を背中ごと抱きこんだ。密着する背と胸の奥から、心臓の音が響く。彼の胎動を耳に閉じ込め、僕はようやくそこで、彼の名を呼ぶ。
瞬時、ふわりと花がほころぶような雰囲気が、彼から匂い立った。
「今夜のジョミーは、じれったいな。」
 くぐもった声が落とされ、折り重なるように抱き合う僕らは、冥々と夜の世界に溶け始めた。蒼然と月光は、ただ僕らに落ちてくる。
「アナタはちょっと、辛抱する事を覚えたらどうですか」
「僕は待つ事には厭いてしまったんだ。」
 今更、僕を苦しめるのは止してくれ。
「それに超然としていない僕、というのは案外、皆に人気でね。」
 この間なんか、真っ赤な顔をした長年の友に、愛の言葉をもらってしまった。
「彼が?」
「ふふ、」
「どこまで本気なんですか、アナタって。」
「僕はいつだって全力でここまで生きてきたよ。」
「疲れませんか。」
「ジョミーを見つけた。」
「ジョミー、ですか。」
「そう、僕の愛しい子。」
 むくりと起き上がった彼が、愛しい愛しいと呟き、僕の頬を撫ぜる。僕の髪を撫ぜる。僕の膝にまたがり、彼はそろりと僕を抱き締めた。彼は尚も、僕に触れ、そこかしこを撫ぜた。
可愛い可愛い。微笑み、アナタは何度も言う。愛しい愛しい、可愛い可愛い。
ブルーの手は冷たい。
ブルーの声はどこまでも澄んでいる。
良い声だと何度聞いてもそう思った。
「さすがに目玉まで舐めるの、止めて下さい、ブルー」
「どうして?」
「気持ち悪いです。いつだって右目だけ。」
「両方を舐めてしまったら、僕が見えなくなるじゃないか。」
「そう思うなら、やめて下さい。」
「嫌だな。」
「我儘だな、」
「善処してるんだよ。片方だけしかまだ舐めてない。」
「そういう問題じゃあ、ないんです。いっそ、僕も舐めましょうか。」
「止めておいた方がいい。気持ち良くはないし、美味しいとも思えない。」
「なら、遠慮して下さい」
「仕方ないな。そこまで言うなら考慮するよ。」
「そうなさって下さい。」
「月が、」
 ブルーの声に、頭上を見上げ、ああ。と、僕は呟く。彼は名残惜しそうな顔をしている癖に、どこか嬉しげだ。僕は最後だと、彼の華奢な体を抱き返す。
 ああ、なんて細い。情けない体。
 するりと頬を撫ぜる手は冷たく、水の匂いが強く香った。
 僕は頼りがいのない体を抱き上げて、水面と地面との境界線、ぎりぎりの縁に佇む。
「あと何度、僕はアナタと逢えるのでしょうか。」
「きっと、月が三度、空に浮かぶくらいだろう。」
「もう、そんなですか。」
「もうすぐ、ジョミーが目覚める。」
「ああ、アナタのジョミーは、もうそんな年になりましたか。」
「直、十四になる。」
「早いですね。」
「子供の成長はいつだって、そうさ。」
 瞬時、頭の中が強引に揺さぶられ、目が回る。
「アナタの最後は、どうか凄惨でありますよう。アナタに静謐は似合わない。」
「そんな事を言ってくれるのは、君だけだよ。」
「そうでしょうね。ミュウは皆、心優しく弱い。」
「痛いところをつく。」
「だから、僕はアナタ方が愛しい。アナタのジョミーによろしく。さようなら。ブルー」
 ジョミー、またね。
「僕はこうして、何度、アナタを落とした事か」
 耳に聞えたのは、人が一人、水鏡にぶつかる音。そして後は、何も残らない。いつだって、そうだ。
 水面に吸い込まれるその瞬間、生まれたての幼子のような無表情さを、その美しいかんばせにのせ、アナタは往く。一刹那、見ているこちらが腕を放した事を後悔させる、優しい笑みを浮かべ、アナタは目を閉じる。もし、アナタが妖しげに目元を弛めたのなら、僕はすぐにでもアナタを追いかけ、その紅い右目を奪い取ってやるのに。
 アナタは水面の底へと掻き消えてしまうのに、僕の右の目玉はアナタの舌の感触を忘れやしない。
「憎らしい事だ。人喰いめ。」
 バケモノ目掛けて吐き捨てた言葉は、水面に映る己の顔へと落ち、消えてしまった。
 静かになった月の下、僕は家へ帰る。
 バケモノに侵されず無事生きながらえたもう片方の目玉で、僕の愛しい人を見つめる為に、僕は往く。
「あの人はちゃんと、眠ったろうか。」
 病弱の癖に、彼はすぐ起き上がろうとする。何度、ベッドへ押し込んでも彼は身を起こし、地球の周りをついて離れない、月の姿を眺めようと躍起になるのだ。無茶をする癖は何度眠っても直らない。
「まるで子供だ。」
 僕の大好きな顔は、水のように清らかで、優しい微笑みがよく似合う。冷たさの欠片も無い温かい笑顔は、僕の心をいつも満たし支えてくれる。陽だまりの持つ穏やかさを、体現したら、アナタの笑顔が出来上がるだろう。
「もし僕が余所の男と逢ってる何て知ったら、やきもきしてくれるんでしょうか。」
 艶やかな笑顔で出て行けなんて言われてみたい。清純な笑顔も素敵だが、たまには毒のあるものも欲しくなる。僕の悪い癖だ。
「いや、待て。ブルーの事だ。嬉しがって僕のものに手を出しそうな・・・。」
 













「ブルーさんのやりたい放題・パラレルワールドでこんばんは。」

平行世界・表へ


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懲りずに学園パロもどき。年上ジョミ(無職ではないが何かあやしい職業)と年下ブル(普通の高校生をやってもらいたかった。ブルーは本当、自分の幸せを見つけて生きてほしい。いや、テラへは彼自身の思いだから、それはそれで幸せなのか・・・。テラへのブルーの思いは何かもう、言葉に出来ないや)








第2話「検査」


 つつがなく、多少の騒ぎもあったけれど、式は終わりへ向けて始まった。新入生達が並ぶ列に、まんまと入り込んだブルーは、進んでいく時の中で、歪みひとつない襟の赤い蝶にほっと一息、自分の機嫌が良い事を今更ながらに悟った。
 中庭での身投げ事件は、目撃者が少数であった事と、当の本人がまるきり他人事のような顔で講堂内へ入ってしまった事により、何やら中庭で事件があったらしい、と囁かれる噂程度で収まっている。その事にも気分を良くしたブルーは、なぜならこの調子だとおそらく、ジョミーの耳には入らないだろうからだ。何があったんだろうね、と隣に座る少年に話しかけた。突然、話を振られた彼はびっくりしてこちらを見たが、ブルーと目が合うと優しげな雰囲気をその両眼に湛え、穏やかに微笑んだ。それから小声で自己紹介をし、君はと尋ねても、彼は口で答える代わりに、ブルーの手をとり、指で文字を書く。くすぐったいと笑うと、彼はもう一度同じように指を動かし、にっこり笑った。ああ、とそこで得心する。
「僕は、ブルー。」
 再度、ブルーは彼の手をとり、名前を言った。
 目を見開いた後、リオと名乗った少年は嬉しそうにブルー、と指で名を呼ぶ。
「そうだよ、リオ。これからよろしく。」
 初めてにして、とても素晴らしい友人を得たと、ブルーはゆるりと微笑んだ。
 ふと、そこでジョミーの事が気にかかる。
 本当に彼は、式に来てくれているのだろうか。一人、姿の若いジョミーが保護者席に座るなんて、目立って仕方ないだろうに。
 身内びいきを差し引いたとしても、ジョミーを見て大抵の人間が振り返るといっても言い過ぎではない。そんな容姿の持ち主である彼の、何より真っ直ぐ前を見つめる瞳は、特に魅力的だと思う。
意志の強さがそのまま形となった緑の目は、一度見たら忘れられない。
彼は、自分にとってちょっとした自慢だった。
 彼はその職業柄、町の人たちがほとんと彼の事を知っているし、頼りにもしている。そんな彼が自分の身内なのだと胸を張って言える幸せは、これといったらない。トォニィではないけれど、ジョミーが一番、と密かに思っているのは誰にも内緒だ。
まあ、トォニィの場合は、口を開けばジョミー、ジョミー。僕のグラン・パ、なのだから、聞いてるこちらとしては、溜まったものではないのだが。
 何度、ジョミーは祖父ではないと言い聞かせても聞かない弟を、そういえば彼も今日は新学期だったかと思う。兄も今日から新学年だったなと思い返せば、今夜はご馳走かもしれない、と腹がきゅ、と鳴った。ついでに言えば、ジョミーは料理も上手だ。元々が器用なのだろう、きっと。それに経験が積み重ねられるのだから、素晴らしい結果になるのは当たり前かもしれない。
 
 
 

②へ


 騒がしいな、と思ったのは学園に着いてすぐの事だ。じっくり雰囲気を感じ取る前に、ざわめきを拾った出来の良い耳は、すぐさま、ジョミーに中庭へ行けと指令を出すよう脳へと進言する。一刹那、伝令を受け取ったジョミーは、勝手知ったる校内をそれでも早足で抜け、人波をさらりさらりとかわして時計塔を視界に入れる。
 講堂のすぐ横、全校生徒に毎時間、時を知らせてくれる時計塔は最上階に大きな釣鐘を持つ。あれを鳴らせるのは何十年とこの学園で働いている、ゼルという用務員だけだ。年老いた体で、まだあの塔に上り、鐘を撞いているのか。老師(彼のあだ名だ)も諦めてさっさとカラクリにするなり電動にでもしたら良いものを。
ジョミーが中庭に到着する前から、鳴り響き始めた鐘の音は、頭の中を無理やり混ぜっ返す程、大きな音で辺りを震わせている。
 尤も、そんな大音響の中で負けじと声を張り上げた女性も大概、すごいけれど。
 誰の保護者だ、ご立派な。
 冷めた感想を吐き捨て、ジョミーが中庭で目にしたものは、空から堕ちて来た天使、ではなく、見知ったその彼。
「入学早々、派手な真似を・・・。」
 呆れ果てて、逆に笑ってしまう。しかもその天使は、大変美しく地面に着地するや否や、颯爽と講堂へ駆け出したのだ。本当に、羽根でも生えているのかしらん、と思わせる軽やかな足取りは、まったくもって素晴らしい。おそらく、彼の耳には周囲のざわめきなど入ってやいない事だろう。かろうじてその視界は、驚いている人々を映している程度、だろうか。
「僕は叱るべきなのか、良くやったと褒めるべきなのか。」
 当然、危ないから二度とやらないよう、注意すべきだろう。
「言っても聞かないからなあ。あの子は。」
 何度か、家で彼が天使になった場面を目撃した事がある。確か始めは、彼がまだ十歳になるかどうか、といった頃だったろうか。ちょっと目を放した隙に、三階の窓から庭へとするりと彼は飛んで行ってしまった。驚いて窓から下を覗き込めば、笑顔で手を振ってくる始末だ。心臓が止まるかと思ったものだ。そう言って叱れば、彼の方が真っ青な顔をして、すまない、死なないでジョミーと泣きそうになったものだけれど。泣きたいのはこっちだと先に泣いてしまったのは、誰にも見せたくない人生の汚点、封印したい過去だ。
「ま、怪我をしないようならそれで良いか。」
 ジョミー自身も、子供の頃は何かと母親を心配させる馬鹿をした。ブルーの事は言えない。
「怪我しないから、厄介なんだけど・・・。」
 一度でもかすり傷で良い。何か起こったならば、今度こそ自分はきっぱり、ブルーに危険な事はしないようきつく言い含める事が出来る。が、それはないだろうと天を仰ぎ見る。
「良い空だ。風も良い。」
 これなら、飛びたくなるはずだ。
「甘いなあ、僕は。分かってる事だけど・・・・。」
 喧騒は収まりつつあるのに、まだ騒いでいる女性を静めてやるのが、保護者代理としての勤めの一つだろう。
「奥さん、あなたは運が良い。彼は曲芸師の卵でね。知りませんか?ほら、公園に来てる、ミュウの一員ですよ。」
  我ながら嘘臭い。けれど気が動転している女性は、それを信じてくれたようだ。途端、目を輝かせて、あのミュウの?!と尋ねてくる。ふむ。どうやらミュウはこの町では人気者らしい。
 ミュウとは最近、地方興行を増やしてきた本国の手っ取り早く言えばサーカス団だ。人間業とは思えぬ華麗な演技は、一種の恐怖すら与える最高のエンターテイメントの一つとして、国民、特に団員達が皆、美形と言う点から女性に大人気だ。ブルーもあの顔だ。それっぽいと言えば、それっぽい。
「ミュウなんかに、売り飛ばしやしないけど。」
 別の意味で盛り上がってきた中庭の連中の子供が、これからブルーの同級生となるのか。
 ジョミーは複雑な思いを昇華出来ないまま、ブルーが消えていった講堂の正面玄関へと、踵を返した。
 鐘の音は空の彼方へ響き渡り、入学式の始まりを告げる。





第1話「入学式」完


第2話「検査」へ
 


 そわそわと、自分にしては落ち着かない気持ちだったのは事実だ。しかし、ここまで気もそぞろだったとは思わなかった。
「参ったな・・・。」
 ブルーは自他共に認める方向音痴だ。いつも兄には呆れられ、弟には馬鹿にされている。今日も、ついさっきまで共に列を成し歩いていた新しいクラスメイトの背中からちょっと窓から見えた桜の木に目を奪われていたら、これだ。
「ここはどこだろう。」
 見失った列を追いかけて、あちらこちらへとさ迷い歩いたのがいけなかったらしい。完全に、自分が校舎のどの辺りにいるのか、入学式が行われる講堂はどの方向なのか失念してしまったブルーは、参ったと辺りを見渡すも、特別教室が居並ぶ棟なのか、生徒は誰一人、教師もおらず、ぽつん、と一人寂しく市松模様の廊下に取り残されてしまった。しかし、学校の廊下が市松模様だなんて、洒落ているなあ、と感心している辺り、生来の場の雰囲気を読まない気儘さが目立つ。
彼は見事に、入学したてで迷ってしまった哀れな新入生、という事実を脳内から消し去ってしまっていた。
「これは教室内も期待できそうだな。」
 心くすぐる内装の学校であれば良いなと、彼の中で期待は膨らむばかりである。突っ立っているのも芸がないので、彼は手近な教室に入ってみる事にした。
方向音痴な人間程、無闇矢鱈と歩き回るのだからやめろ、とジョミーに注意されたのを、さっぱり忘れているブルーは、意気揚々と林檎の木に絡まる蔦を描いたガラス戸をひく。ずっしりと重い扉は、少しも音を立てずにブルーを室内へと誘った。
 分厚いカーテンがおろしてあるのか、教室内は薄暗い。すぐさま闇に慣れた目は、壁際一面が本棚である事を視認させ、高い天井まで届く本の壁は、少年を多いに圧倒した。
「すごいな、これは・・・、ジョミーなら喜んで居座りそうだ。」
 そして授業には出なかったりするのだろうな。そんな彼を僕はいつも迎えに行って、言うんだ。
「何を?」
 は、とありえない想像、もはや妄想に近い。に、自嘲して、ブルーは意識を眼前に戻す。
 一歩一歩、中央の円形の机に向かって進むブルーは、本の中に吸い込まれそうになる気がした。迫り来る世界は、どこまでも続くかのような錯覚を抱かせる。机の向こう側にも書棚は立ち並び、膨大な知識が手を招いて待っている。
「窓・・・、」
 電灯のスイッチの場所が分からず、カーテンの向こうの陽光を求め、窓へと近付く。思ったよりもかなり広い図書室は、中央に設えられた机の他にも、一人用や四人掛けの机がいくつもある。入り組んだ書棚の配置は、まるで迷路のようだ。ここをこれからの根城の一つにしようと、彼は決めた。
 ようやく辿り着いた窓の、やはり分厚かった遮光カーテンをそっと、覗ける幅だけ開き、差し込んできた太陽の強さにしばらく、目を細める。慣れてきた目を下に向けると、中庭を隔てた奥に、目指す講堂があった。目を凝らせば、生徒達が一列に並び、正面の扉から中に入っていくのが見える。
「何だ、お向かいか。」
 あそこならば自分ひとりでだって、行ける。
 目的地が分かった事で、一安心した彼は、せっかく見つけた宝箱のようなこの場所。誰にも邪魔されない今、面白い本はないだろうかと好奇心が頭をもたげてくる。とりあえず、片手でカーテンを隙間程度に開けたまま、側の棚の中身を検分する。
「・・・アルバム・か・?・・。」
 ずら、と並ぶかたそうな背表紙は、赤いベルベッドの布張りだ。年代別なのか種類別か。紺色や緑、黒の物もある。卒業アルバム、学園の歴史、などなど。タイトルは様々だが、すべて学園関係の記録らしい。
 すぐ頭に浮かんだ年号の赤い本を手に取ろうとした所で、何か外の気配が変わった気がした。何だろうと見れば、講堂へ続く生徒の列がすっかり解消されている。ちらほらと、保護者らしき人々の姿も見えた。よくよく耳を澄ませると、ぼわんぼわんと響く鈍い音もする。講堂の真横にある高い塔の天辺には、大きな釣鐘がある事に気付く。目は良いので、じっと様子を見ていれば、鐘は前後に動き、音を出している。
「いけない、式が始まる。」
 言葉の割にはあまり慌てた様子もなく、彼は伸ばした腕を引っ込め、ふと、窓から外をじっと見る。小さいながらも露台が張り出してあり、ブルーは窓の鍵を開けて(出口は違う場所にあるのだろうけど)、窓から露台へと移動する。手すりにはプランターがかかっており、チューリップの花がいくつもすらりと咲き誇っている。
ここの露台も素晴らしい。この学校は、一体誰が設計したのだろうか。
手すりから身を乗り出せば、頬をくすぐる風が気持ちよい。風に乗って、鐘の音も、随分ましに聞えたが、距離の割には遠い所で鳴っている様な気がする。
中庭を見下ろす。さして距離のない事を確認し、青々とした芝はとても柔らかそうだと観察した。講堂へ向かう人は、よもや新入生が図書室の露台から覗き見しているとは誰も思うまい。
「時間も差し迫ってきた事だし。」
 自他共に、方向音痴であると認めるブルーである。目の前にある建物へ行くのに、もはや迷う事は時間的にも自分としても許されない。というか、図書室を出て無事に中庭へ降りられるかどうかも微妙な感じだ。これ以上の時間の浪費は無駄と思えた。
「ジョミーが見てませんように。」
 見つかったらお説教が待っているに決まっている。
 プランターに足をひっかけて落してしまわないよう気をつけながら、手すりを飛び越え、空中へと身を躍らせる。瞬間、誰かがこちらを指差し、大きな口を開けたが、何と言ったのかは聞えなかった。ただ、気持ち良い。風を受け、体が落下していく。
身に馴染んだ感触に、今日は良い風だとだけ思って、何事もなかったかのように澄ました顔で、中庭へと降り立った。着地は成功、思ったとおり、芝は柔らかく足へと掛かる衝撃を弱めてくれる。
「ここに入って良かった。」
 騒ぎが大きくならないうちにと、ブルーは講堂目指して駆け出した。
 それにしても、今日は良く走る日だ。
 
 
 
⑤へ
 
「さて、どこへ仕舞ったかなあ。」
 ブルーを送り出してから自室に戻り、カメラを探し始めたのは良いが、なかなか見当たらない。彼曰く、ちょっと眉を顰めてガラクタばかりの部屋、である自室兼何でも屋の事務所はカメラを探す為に散らかしたガラクタで、床がいっぱいだ。足元に気をつけながらの捜索は思ったようには進まず、いっそ作るかと、屈みながらあれやこれやと探していた為に押し縮まった体を、天窓に向かって思い切り伸ばす。
「それにしても、似合ってたなあ、ブルー。」
 つい手に入れたばかりの本に夢中になり、夜を過ごしてしまった頭を休ませようと寝床に潜り込んだ所で、己の素晴らしい聴力は階下の物音を察知した。飛び起きて、慌てて側にあったシャツを羽織り、階段を下りたら案の定、そこには黙って出かけるつもりだったのだろう、しまった、と言わんばかりのブルー少年。彼を見送る事は、この家に世話になるにつけて、自分が自分に決めた約束事の一つだ。サボるわけにはいかない。何より、彼の制服姿を一番に見てみたかった、というつまらない理由もある。
 どこかの写真集から出てきたような、整った造作をしたブルー。否、彼以上の所謂、美少年など早々、いない。いてたまるもんか。そんな彼にあの制服はぴったりだ。
「赤いタイ、というのがまた何とも愛らしい。」
 黒のブレザーに同色のスラックス。白いシャツに赤いタイ。冬はあれにコートがつく。そういえば、制服は学生服もあったか。と、二種類ある事を思い出し、どちらも似合うはずだと頭の中でブルーを着せ替えて、ふふと笑う。
「まずはブレザー姿を写真に収めねば。」
 何より、写真を撮り忘れたなんて知れたら、フィシスが何をしてくるか。
「呪いくらいではすまないだろうな。何せフィシス様はブルーマニア。むしろ至上主義。」
 ぶつぶつと独り言をお供に、ないなら作るまで、と道具箱を取り出して、適当に床を座れるように物をどけ、胡坐をかく。
「しかし、因果な物だよ。フィシス。君のターフルはどこまで、分かっていたのかな。」
 ぽつりと苦笑と独白を落した後、ジョミーは時計を見て急げと、作業に取り掛かった。




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