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地球へ・・・二次創作パラレル小説部屋。 青爺と鬼軍曹の二人がうふふあははな幸せを感じて欲しいだけです。



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 風が心地良かった。まろやかな甘さを含む風に、近くに何か、花が咲いているのかと見通しの良い屋上から周囲を観察する。最初に目に付いた中庭は、青々とした芝生の絨毯が実に見事で、思わず感嘆の声を上げた。中庭に面して張り出す露台を持つ教室がいくつもあって、それぞれに鉢植えや蔦が絡まっている。遠目でも分かる、隅々まで手入れの行き届いたそれらに、これからの学園生活を思って素直に胸が躍る。この中庭は、自分の気に入りになりそうだと思った。
「ま、この屋上もなかなかのものだけれど。」
 てっきり生徒は立ち入り禁止になっていると思っていたが、そこはさすが私立というべきか、もしくは余程、学園側の安全管理に自信があるのか。あっさりと、むしろ、暇な生徒は皆、休憩しにおいでよ、と言わんばかりに屋上へ続く階段は当たり前のように最上階のフロアから続いていて、拍子抜けしてしまった。高等部を始め、中等部、初等部とがあるこの学園は、きっとそういった学年の垣根など存在せずに、自由に学内を生徒達が闊歩し、すべての教室を利用する事が出来る配慮もなされているのだろう。随分と、以前にいた学校とは体制の違うシャングリラ学園に、始めこそ驚いたが、今ではここへ転校してきて良かったと心の底から強く思う。この町に転勤が決まった父に、感謝だ。
「さて、転校生らしく職員室へ挨拶に行きますか。」
 ここの教師や生徒はどんなものだろうか。品定めをするようなこの気持ちは、転校生ならではないだろうか。ちょっと意地の悪い遊びに興奮する心中を、乾いた下唇をなめる事で宥める。
「いや、その前に気になる事を解決する事の方が先かな。」
 無視をしていたわけではないが、あえて気に留めなかったそれに、じ、と視線と注意を集める。
 ビスクドールみたいだ、と思ったのは己が持ちうる限りの、美への賛辞だ。銀髪に白い肌は、そういった趣味の人間でなくても、ぞわりと首筋の産毛が泡立つ。危険な生き物だな、とある種の恐怖すら感じて、それに声をかけてやるかと顔を覗き込む。第一、生徒はこの時間は確か、身体検査ではなかったろうか。もしくは学級活動だ。こんな所にいていいはずはない。
「不良?」
 それにしては、見目が良すぎる。麗しいそのかんばせは、見るからに、優等生タイプだ。
「サボりにしては、堂々としすぎていやしないか。」
「残念ながら、そうなんだ。」
「わ、口きいた。」
 てっきり眠っているかと思い込んでいたそれは、その容姿に相応しい音色を奏でる。
「失敬な。喋る事ぐらい、いくらでもするさ。人形ではないのだから。」
「その顔で?」
「僕は人間だぞ」
 そう言って、わざとらしい溜息をつく。ご立腹、といった気配を漂わせながらも、口元は笑んでいる彼は、目を瞑ったまま、起き上がる気は一つも無いようだ。このまま放ってその場を去る事も出来たが、何となく面白そうなので、彼の顔に影が差すところまで近寄り、更に言葉を投げかけた。
「僕の名前はセキ・レイ・シロエ。シロエって呼んでくれてかまわないよ。」
「何だ、随分と横柄な物言いだね。僕はブルー。無遠慮に呼び捨てればいいさ。さあ、存分にそうしたまえ、シロエ。」
「あんたも似たような物だろう。」
 きゅ、と眉を寄せてさも面倒そうに彼は寝返りをうつ。そんな彼を見ていたら、立っているのも馬鹿馬鹿しくなって自分もその場にどかりと胡座をかいた。彼の白磁の肌が、直射日光に晒される。
「シロエ、君は何年生だい?僕は高等部の一年生だ。」
「奇遇だね、僕もこの学園の高等部一年さ。」
「ああ、君か。入学初日にE-1077で騒動起こして二日目にこのイロモノ学校に転校して来たのは。ようこそ、我がシャングリラ学園へ。」
「へえ、よく知ってるね。」
 素直に驚いた。たいした情報網だ。
「他に知っている事は?」
「そうだね、セキ・レイ・シロエ君。君はとても優秀だけど、中でも機械工学が得意だね。ちなみに僕は幼少からの趣味が高じて算盤が得意になった。級持ちだぞ。それと君は小さい頃はピーターパンに憧れていたんだってね。それは僕も同意さ。空を飛ぶのは気持ちが良い。」
「・・・・君、何なの?」
 どうしてそれを知っている。得意科目はともかく、自分ですら忘れそうになっていた、幼い頃の淡い思い出を、なぜ知っている。
 風が、僕らの間を通り抜けていく。日光に晒される肌が、じりじりと熱を持ってきた。
 人形のような彼の顔が、ぴくりと動き。
 ぱち、と開いた瞳は紅い色。
 あまりの鮮やかさに言葉を失う。息を呑んだ瞬間を狙いすましたのか。少年は、さらっとこう言いのけ、暇だといわんばかりに首もとの赤いタイを指で遊んだ。
「だって僕、エスパーだもの。」
 馬鹿いうな。
 
 




④へ
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 なくしてしまった何かを、いつも、探していた気がする。
 それは物なのか、はたまた人なのか。
 いつ、なくしてしまったのかも明確な事は何も分からない。ただ、なくしてしまった、いや、奪い取られてしまった、何か、を求めていた。
ひたすらその思いに突き動かされるがまま、周囲を省みる事など勿論、しない。そんな余裕はなかった。そうして、自分はここまで来たような気もする。故に、誰にも言えない思いは心を貧しくさせて、絶えない渇きを訴えた。
 また、自分はいつまで、このまま見えない何かを求め続けていられるのだろうかという不安が、むくむくと胸の奥で育っている事も知っている。それは自分をひどく弱らせる。
 はたしてタイミングが良かったのか、悪かったのか。
 尤も、それを誤魔化し強がる事くらい、わけはない。
 そう、僕は強い。強いのだ。
 負けてなるものか。
 握り締めた拳のやわさに、僕ははっきりと自嘲した。
 
 


③へ

第3話またの名をブルーの妄想劇場開演














 春の陽気はいとも簡単に、気持ちの糸を弛めてしまう。それは無意識の内に襲ってくるのだから堪らない。いつも、ふらと意識が遠のく事すら感じない。後からそれを思うたびに、何ともいえない寒気がする。ましてや考えたくない事や、やりたくない事が差し迫ってくると、心は制御を解き放ち、自由になった精神は好き勝手、あちらこちらを練り歩く。
 瞼を薄く押し開き、眼前の頭の数を数えてみた。ひとつ、ふたつ、みっつ、よっつ。数えるほども無い頭に、ちょっと憂鬱な気分になってしまった。そういえば、リオはどこへ行ったのだろうか。ああ、彼は背が高いから、もっと列の後ろにいるのだったと思い出した。
僕はこの背の順に並ぶという事が嫌いだ。せめて名簿順であったら良かったのに。もしくは、好きな順。これが一番良いと思う。生徒の自主性を大切に、とご立派な校則を掲げているのなら、今でこそ、その校則に則った生徒指導を行うべきではないのだろうか。
 ああ、矛盾だ。学校という世界は矛盾だらけだ。すなわち、社会は矛盾で構成されている。ああ、忌々しい。忌々しい。ジョミーなら、きっとそう言っただろう。彼の口癖はたくさんあるけれど、「忌々しい」は、その中でもよく彼が口にするお題目だ。そうだ。ジョミーなら、この状況をどう打破するだろうか。打破どころか、彼は最初からこの列には並ばないだろう。当然、彼がそうするならば僕はそうするであろう事を知っているから、同じく並ばない。並ばないという事はこの場には僕らは姿も現さない。そうだ、僕は図書室へ逃げよう。その先では必ず、ジョミーが不機嫌そうな顔で居座っているはずだ。僕が来る事を承知で待っているのだ。
「どうしてそこまで嫌いなんだい?」
 呑気な春の気配に脳みそを溶かされる危機は、どうやら免れたらしい。
 腰に手をあてて、ちょっと怒った風に僕が言うと、彼はぷい、と顔を背け読書に没頭する振りをする。
「嫌がっても仕方ないだろう?学校の決め事だ。」
「どの口でそんな事を言ってるのブルー?」
 露台に差し込む光は、乳白色の床に反射して、図書室内へ燦々と太陽の恵みを与えている。それに目を細めて、四人掛けの机の角と角、彼から見て一番、距離のある場所に腰掛けた。
「君だって僕を探してくるとか上手い事言って、どうせ抜け出してきたんだろう。とんだ生徒会長殿だよ、まったく。」
 憤慨する彼に、意外さを感じて僕は声のトーンを落とす。
「怒ってるの?副会長。」
すると彼は、ぱっと書面から顔を上げ、目をぱちくりとさせてけろっと言った。
「まさか。」
 その返答に、にや、と向かい合わせで笑って、僕は席を立ち、彼のすぐ側の椅子に座り直した。ぱたん、と本を閉じ、彼はにっこり笑って言う。
「では親愛なる我が友よ。これからのご予定は?」
「そうだね、腹心の友よ。まずはこの牢獄からの脱出を試みるというのはどうかね」
「実に英断。勇気ある逃避行。」
「ならばゆこう。」
「いざ、」
 芝居がかった口調は、先月やった学園祭での演劇の台詞そのままだ。しいて言うならば劇当日とは配役が逆、というくらいだろうか。あの日は彼が逃亡を促す少年の役だった。
 どちらも主役、どちらも脇役。僕と彼は生徒会長と副会長という学内での役割を果たす、幼き頃からの無二の友だ。
「ブルー。」
 差し伸べられた友の手を取ろうと、腕を伸ばす。
 ブルー。
直接、脳に響くような、その声は。どこから聞えているのだろう。
ブルー、
ブルー?
ぼわんぼわんと木霊する。
ああ、そんなに急かさないでおくれよ。
 繋がった手と手が、しっかりと互いを結びつけ、僕は彼の名を呼ぼうと彼の顔を見て驚いた。
「・・・リオ?」
「はい?」
 にっこり笑って不思議そうに僕と繋がった手を見せるリオは、何だか困っているようだ。とてつもなく嫌な予感がして、己の居場所を確認する事はあえてしない。とりあえず、だ。
僕は相変わらずリオと手を繋いだまま、現状を尋ねた。
「・・・・リオ、僕は今、何をしてる。」
 保健室へ身体検査に行く為に廊下に並んでますけど?
「さよなら、リオ!!」
 ばっと手をはらい、自由になった両腕を前後に振って駆け出す僕を、背後から呼び止めようとするリオの必死な思いが聞える。
「ブルー!!!」
 すまない、リオ。君を置いていく薄情な僕を許してくれ・・・!!!
 く、と涙をこらえ、僕はなんだなんだと騒ぎ出したクラスメイトの列を真っ二つに切り、階段を上へと駆け上った。背後には、リオの悲愴な「そこまで嫌いなんですか身体計測!!」という言葉に「死ぬぐらい!」と返し、今年が大学を出てすぐの新任だろう、なぜなら見るからに歳は若く頼りない(いや、それは性格だろうか。ならば訂正だ。温厚そうな、気の優しそうなというべきだろう、優男とはまさに彼の事だ)、担任シドの戸惑いに満ちまくった声が僕の名を呼んでいる。僕は脱兎の如く駆け抜け、時々、人や柱にぶつかりつつもひたすら上を目指した。
 最後の扉、と思った先、ばん、と開いた向こうに広がるのは期待通りの希望に満ちた青い空。
「屋上・・・っ!!」
 荒い息を何度も吐いては吸って、呼吸を整えようとするが、落ち着こうとするたびに心音が高鳴った。最後にはさ、と全身から血の気が引いて、足が重りのように動かなくなって、僕はその場にへたり込んでしまった。腕も足も、ずん、として何だか冷たい。胸の奥と肺に続く道筋だけが酷い熱さで、頭の中は空気でいっぱいだった。
 しまいには声も出せなくなって、ひたすら、落ち着けと深呼吸を繰り返し、身を襲う衝撃に耐える。
 冷えていく脳裏で、幻覚を見ていたようだと思い出す。繋いだ手は確かに、ジョミーのはずだった。彼は僕と同じ年で、どうやら僕らの学年はもう一年、上のようだった。彼らは生徒会長と副会長、と互いを呼び合っていたからだ。ああ、間違いない。僕は幻覚に酔っていた。
「むしろ、妄想の氾濫だな・・・。」
 自嘲はようやく落ち着きを取りもどした溜息となって、口元から漏れ出でた。
 いや、またやってしまった。というような諦めの念も混じっている。やってしまった。何を?分からない。思考も記憶も、ごちゃ混ぜになっている。走りすぎたようだ。運動神経は悪くはないと思うのだけれど。いかんせん、体力がない事を、はっきりと自覚している。兄を見習い、ジョギングでもして体力向上に努めるべきかもしれない。
 はあ、と一息つき、尚も痙攣しそうな体を引きずり、太陽が照りつける屋上を進む。限界、と体を投げ出し、大の字に転がった。
 なだらかに流れる雲が恨めしい。世界はこうまで平穏無事に時を過ぎているというのに、なぜ自分はこんな苦しく辛い状況に陥っているのだ。
「自業自得とは決して思うまい。」
 思ったら負けだ。
 冷や汗が額を伝った。気持ち悪い。きゅ、と手足を縮まらせて、横むけに寝返り小さくなった。
 ジョミーがいた。僕は生徒会長、彼は副会長。二人で、同じ制服を着ていた。あそこは紛れもなく、昨日の入学式の日に飛び降りた図書室だ。
「確かに、彼と一緒ならば二人して、抜け出すどころか検査を前に勇気ある逃亡をしているよ。」
 それも絶対なる自信をもって。理由なんかいらない。
 僕らは検査から逃げなければならないのだと、大声で叫んで笑い声交じりで走るのだろう。二人で駆けたらきっと、こんなに胸が辛く痛みを訴える事はないだろう。
「最悪だ。」
 僕はそのまま、意識を睡魔に投げやった。意地でも検査など、受けてやるものか。それでジョミーが呼び出されたって、かまわない。入学早々、三者面談といこうじゃないか。どんとこい。僕の隣に座る彼は、僕よりも頭二つ分も背の高い、大人のジョミーであるけれど。彼と二人ならば、不安に思う事など何も無い。
 根底に流れる彼への絶対的な信頼は、上っ面にある、彼とどうにもすれ違いたくなる僕の意識を大きく覆す。弟と兄の、ほら見た事か。と偉そうに鼻で笑う幻影を見た気がした。
無性に腹が立った僕は、あまり行儀は良くないけれど、それを叱る相手もいないので、思う存分に舌打ちをする。
 太陽が、僕を焼き尽くす前に、起きなければならないなと思って、僕は目を閉じた。






②へ
テラ最終話。なんだかまだ、ふわふわした感じ。始まるまでどきどきして、見てる時はどくどくなって、終わったらざわざわと。とりあえず、なんかもう。ありがとうテラスタッフ!!!あそこでああくるとは思わなかった。つかグレイブ!!回想ブルーもたくさん。作画も安定、美しい。結果、はじき出された妄想話。アニメの終わり方も素晴らしかったけど!やっぱり、みんなでわいわいやってる、夢の共演、テラが!放映後のテンションが生み出したパラレルです。アニメの余韻に浸りたい方は、見ない方が・・・。













テラ最終話後の甚だしい妄想
 
 
 
テラから離れ、じき、十日あまりがたつ。グラン・パを筆頭に、長老たちや多くの仲間たちを失った僕らは直後、深い悲しみにとらわれてはいたが、やがてそれらは戸惑いや淋しさを残す程度には回復してきた。何よりも、僕らはテラの上、それまでにもテラへの道程の中で散っていった仲間の意志を引き継ぎ、明日を生きなければならない。いつまでも過去にすがっていられない。
僕らは必死に生きた。かつてのミュウや人間といった隔たりを乗り越えようとしている僕らは、生き残った仲間とシャングリラを中心に宇宙をさまよい、人同士、心をかわそうと皆、懸命だ。そんな中、あの時、シャングリラに転移されてきたテラの子供たちは、慣れない環境や突然、知りえた現実を前にして、もしかしたら一番つらく、そして力強く生きようとしているのかもしれない。
それは彼らとともに、生きよと長老たちに送り出されてきたフィシスも同じだった。彼女は率先して、親も友人もいない彼らを愛し、慈しんでいる。子供たちも一緒にあのテラからやってきた、という連帯感からか、フィシスにひどく懐いている。その甲斐あってか、彼らは元気に今日も、シャングリラ船内を駆け回っていた。時々、悪戯が見つかったのだろう、おやえ女史の怒声が、シャングリラを巡る。その度に、僕らは幸せな溜息と笑い声を発した。
一見、すくすくと毎日を過ごしている彼らに見えたが、彼らにも確かな弊害が生じている事を僕はフィシスから教えられる。初めてのテレポートによるショックからか、それとも別の要因があるのか。子供たちの中で三人程、記憶障害を引き起こしてしまった者がいた。フィシスは自分のことが分からない、名前すら記憶にない彼ら三人に新たな名前をつけ、他の子たちよりも情緒が不安定な彼らを、特に注意深く見守っていた。
子供たちは眠る時、皆がフィシスにくっつきたがった。彼女の側にいると安心するのか、彼らは悪夢を知らずに時を過ごせる。フィシスは一人一人、子供たちをしっかりと抱き締め、おやすみ、と言ってやるのが日課となっていた。時折、それに僕も参加する。が、懐いてくれるのは未だ、三人だけだ。その内、他の子たちも近寄ってくれるだろう。何せ僕は彼らとそう、歳は変わらないのだから。
 それなりに時は流れようとするものである。
今日も僕はシャングリラのブリッジで、数少ない仲間たちと、新たな仲間たちの中から集った代表者とともに、これからの道を模索していた。
「ソルジャー、ソルジャー。トォニィ!!」
 緊張感にうんざりとし始めた僕の耳に、痛いほどの思いが篭った声がする。息を荒げ、珍しくもフィシスがブリッジへと走り込んできた。彼女のここまで焦りと不安に満ちた声を聞くと僕はまだ、どきりと、恐怖が心を支配する。しかしそれよりも、呼ばれ慣れないソルジャーという呼称に、胸がきゅ、となる。それはきっと、懐かしさや淋しさ、そして誇らしさと、晴れがましい照れくささから。ブルーや、ジョミーと同じ、名前だから。
「どうかした、フィシス。」
「ああ、トォニィ。どうしましょう。」
「落ち着いて。何があったの」
「あの子たちが、彼らがいないんです。また、かくれんぼでもして遊んでいるものと思っていたんです。でも、皆で眠る準備をしはじめても、あの子たちだけが帰ってこないのです。心配になって探したのですが、どこにもいないの。ああ、どうしましょう。トォニィ。ジョミーと、ブルー。キースを探してください」
 びくり、と、刹那。僕の指先は震えた。慣れないその名は、フィシスが名を無くした三人の子供たちに与えた、新たな名前。
彼らを彼らと成した、大いなる名前。どこか「彼ら」に似通った雰囲気を持っていた三人の子供たちは、新たな名前に臆することなく、のびのびと生きている。しかし、最初にその名を聞き、僕はフィシスはなんて残酷なのだと思った。彼女を攻め立てる気にはならない。だが、あまりにも酷な事ではないのか。その名をつけるということは、名に刻まれた重みすら、背負うと言うことには、なりはしないのだろうかと。
子供たちの名前を彼女が告げた時に、フィシスにそう進言すると、彼女はにっこり笑い、彼らの魂が、私に教えてくれた名前なのです。と言った。そこには戸惑いの影すら、見受けられない。また、僕自身がもっとも覚えのあるその感覚を持ち出されたら何も言えない。なぜなら僕はフィシスに僕の名を告げた過去を持つからだ。
 偶然の贈り物なんだね、と問えば、素敵な贈り物です。とほほえむ彼女。彼女がブルーやジョミー、キースと呼ぶたびに、はたして彼女の見えない眼は一体、誰を映しているのだろうか。僕はそれを尋ねたい気持ちになる程、まだ、大人にはなれない。
 誰にも震える体を悟られぬよう、マントの裾を大げさにさばき、僕は言う。
「シャングリラ、すべてを探したの」
「ええ、子供たちや、ツェーレンたちにもお願いして一緒に探したのですが、」
「格納庫も?展望台や機関部も?」
「はい、すべて」
「ブリッジ内は?」
「まだ、まだでした」
 彼女の気の抜けたような声音に、なぜか僕はほっとした。「青の間は?」と尋ねなくても良い事実に、僕は安堵したのだ。テラを去った時から、僕らの間には「青の間」の名を出さないという、暗黙の確約が自然と取り交わされていた。やはり、僕らはつらかったのだ。彼らを連想するもの、させるものすべてが、つらく悲しく、さみしい。そして、愛しい。
「いましたよ、ソルジャー!」
 シドの声に、フィシスが喜びに包まれる。
「ああ、良かった。子供たち!」
 駆け寄るフィシスは女神でも何でもない。我が子の無事な姿に安堵し、ただ抱き締める母親だ。彼女の背中を見て不意に、ママを思い出す。幼い自分のこと、そしてグラン・パの赤いマント。抱き上げられた高さは、パパより高くて、色んなものが見えた。
「見つかっちゃったや。キース、おまえこんなところに来たがるからだめなんだぞ」
「ブルーだって賛成した」
「僕はブリッジを上から眺めたかったんだよ?」
「だってさ。キース、おまえが先にフィシスにあやまれよ。」
「ジョミー、君が一番先に忍びこんだよな、ブルー?」
「どうだったかな、ジョミー?」
呑気に掛け合い漫才を始めてしまった子供たちは、世界は自分たちを中心に回っていると無意識に分かっている、まだ年端も行かぬ幼さを振りまいている。
「こら、お前ら。勝手にブリッジに入るなと言っておいたはずだ。それに今は、何をすべきだ?」
「ソルジャー。」
 呼び掛けに、一斉に振り向く小さな頭が三つ。太陽の化身に、夜の静けさ、そして刹那に瞬く星の色。順に、ジョミー、キース、ブルー。光の加減で薄い金にも星色にも見えるブルーの髪が、まいったな、と言うようにしゅん、と垂れている。その様がすこしおかしくて、僕は笑いをこらえるのがやっとだ。
「ジョミー、キース、ブルー。」
 フィシスの声に、ジョミーの肩がびくりと強ばる。
「ああ、もう。泣かないでよフィシス!」
 あわてるジョミーを尻目に、キースが歩み寄り、幼いその腕で床に崩れ落ちてしまったフィシスの頭を抱きかかえた。ブルーは黙って彼女の手を取り、ジョミーは一人、あわあわとしている。ようするに、三人とも、フィシスが彼らを思うように思っているのだ。まったく、彼女を大切に思うなら、フィシスを泣かせるようなことをしなければ良いのに。
「もう、黙っていなくならないで」
 彼女の言葉に、三人は素直に謝った。
 ブリッジにいる全員が、ほっと息を付く。
 正直、彼らの思わぬ参入は助かった。ここのところ、あまりにも壮大な宇宙と未来を前に、僕は疲れを感じはじめていたのだ。若々しい風そのものの彼らを前に、僕らは怖じ気づきそうになる気持ちに背を向けられる。
「さ、子供はもう寝る時間だ。」
「はい、おやすみなさい、ソルジャー。」
「おやすみ、トォニィ。」
悪戯っぽそうに青い瞳を細めるジョミーと、手を振るブルーに、十歳くらいのナリをして、目礼をするキース。彼らを見送り、自分だってまだ子供のくせに、と僕は知らず、自嘲した。フィシスが心配そうに僕をみるのが分かる。彼女、本当は見えてるんじゃなかろうか。


 
 
 
 
 


膠着から脱した僕らは遅くまで話し合った。これからのこと、そしてお互いのこと。新鮮な気持ちでなされた会話は、実のあるものだった。
僕は寝静まったシャングリラを、夜の散歩だと、練り歩く。誰の姿も見えない夜のシャングリラが、意外にも僕は好きだ。きっとそれは、昔、グラン・パが僕を背負って、夜の散歩だと囁き同じようにシャングリラを練り歩いたせいだろう。
ナスカに降りてからしばらく、僕が生まれたあの頃、グラン・パはナスカに定住すべきだと主張する若い世代と、テラへ向かうべきだと唱える長老たちとの間に挟まれ、そして何よりもブルーの心を思い、悩んでばかりいた。そんな時、彼はよくこうして、僕を背負ってシャングリラや時にはナスカの地を歩いた。僕が知らないだけで、グラン・パは毎晩、こうして黙々と、散歩と称し眠れぬ夜を明かすように歩いていたのだと思う。もしくは青の間へと、身を寄せていたのだろう。今の僕には近寄ることすらできない、青の間。あそこはシャングリラの聖域だ。あの場所には、ブルーやジョミーの残り香が今でも色濃く漂っている。故に僕は近寄れない。さみしさに取り込まれそうで、怖かった。
 そう、僕はやはり、さみしい。最後に頭を撫ぜ、抱き締めてくれたグランパの腕のぬくもりが忘れられない。肩に添えられたキースの手の平の熱さが忘れられない。幼い体を受けとめてくれたブルーの胸の暖かさが、今でも全身覆い、守っている。過去にとらわれてはいけない。
前へ、僕らはすすみたい。
けれど、ほんの少しだけ。前へ進むための力を養う為に、ほんの少しだけ。昔を懐かしむ余裕を持ったって、いいじゃないか。
 僕はすっかり遠退いてしまっていた青の間へとつま先を向けた。
 何もない。あるのは空のベッドだけ。それでも、受け継がれたこの補聴器を、元の主人の幻影へ一時、預けるくらい、いいじゃないか。
 僕は青の間に、久しぶりに足を踏み入れた。
 静寂に包まれた場所。青白い光を放つ、ソルジャーの寝床。ブルー亡き後、グラン・パの居場所ともなっていた。
「グランパの時は差し詰め、赤の間、かな?」
 なら僕は、マントの色を取って緑の間、かな?
 使うはずもない名称を考えて、おかしくて、僕は笑う。なんだか笑ってばかりだと、自分のたくましい想像力と思考パターンにまた笑った。

 
 
 
 



テラを出てから十四日、今夜も僕は夜の散歩を楽しむ。三日前からの終着駅は、青の間となっている。僕は皆が起きだすまでそこで何をするでもなくぼんやりとし、時には夢うつつとなる思考の向こう、幼い日々を懐かしむ。記憶のレコードが、擦り切れないように。回りすぎないように。慎重に、目を瞑りしばしの安楽を受けとめる。
 今夜も先夜を見習い、空のベッドに腰掛けることなく、すぐそばに座り込み、目を瞑る。昼間に眺めた幼い自分の落書きには、笑顔のジョミーのそばに、ベッドで眠るブルーもそえてあった。我ながらたいしたものだと思った。
 と、耳がどこからか水音を拾った。はた、と思案にくれていた意識をあたりに向ければ、誰かの視線を感じるような気がする。おかしい。ここには今は僕だけだ。しかし、確かに何かの気配がする。気のせいか、足音すら僕の耳は拾い取っていた。
 そういえばフィシスが、このところ、オバケが出ると子供たちが恐がっていけない、とこぼしていたことを思い出した。辺りに渦巻く仲間の思念や気配を感じているだけだろうと、まさか、と笑い飛ばしていたが、まさか。
マントの握り締め、膝に手をやり縮こまる体が情けない。
ここには自分以外、誰もいないはずだ。第一、皆、ここには近寄ろうともしない。それなのに。誰もいないはずなのに。思えば思うほど、誰かの気配は、ますます強くなっている。見つめられている気すらしてきた。
 まさか。
 ぴちゃ、水が跳ねる音がした。
 まさか。
 おそるおそる、顔を上げれば、やはりそこには誰もいない。ただ、静かな水面が広がるばかり。
 まさか、なあ。
 は、と息を付いた瞬間。
「またここに来たのかい、トォニィ?」
 聞き覚えのある、幼いその声。
 見上げた先、微笑む眼差しは見慣れた緑柱石。金の髪は薄青の世界に溶け込みながらも、しっかりとそこにある。記憶のものよりも幼い顔に、ああ、君かジョミー。またかくれんぼかい?尋ねる舌が固まる。
待て、ジョミーの目の色は、何色をしていた?それに、この顔。似すぎてや、いやしないか?混乱したまま記憶を探ろうとする僕の目に、何かが浮かんでいるような影がうつる。視線をあげて、同時になぜ、と声をもらす。君は、君たちはテラの子供たちではなかったのか。なぜ、ミュウでもないのに宙に浮かべる。
 穏やかに笑む紅い瞳。銀色の髪は、ふわふわと宙に浮く体に合わせ、青の間に当たり前のようになじんでいる。光の加減などではない。はっきりと分かる、白銀の髪。きっと彼を置いてこの青の間に相応しい人物はいないだろう。最後に背後から、のっそり顔を出したのは氷青色の瞳と美しい黒髪の少年。心なしか目付きが昼間に見た時よりも、鋭く無感動だ。
「幽霊?」
 恐々と紡いだ言葉に、彼ら三人、幼い姿ではあるが紛れもない「彼ら」三人ともが目を合わせ、同時に吹き出した。
「発想はまだ、幼いものだな」
「トォニィは想像力が豊かなんだよ。」
「恐がらせてすまない、トォニィ。」
 キース、ジョミー、ブルー。
 否、キース・アニアン、グラン・パ、ソルジャー・ブルー!!
声が、擦れる、と思ったが、案外しっかりした音が鳴る。おどけた風を、装って。
「キース、ジョミー、ブルー。またかくれんぼかい?」
萎縮していた体から、力が抜けていく。悪戯坊主の笑顔で、緑の瞳が細く笑った。
「そうだよ、トォニィ。ちょっと、隠れてる時間も場所も長くて難しかったかい?」
「はい、ジョミー、いいえ、グラン・パ。でも、みつけましたよ」
 とん、と床にブルーの足が着く。
「みつかった。」
重なる声は、馬鹿みたいに晴れ渡っている。
「どうして?」
「それだよ、」
 指し示す指先は、白く、細い。
「補聴器?」
「そして、あの時、強く願ってくれた長老たちと、君自身に。僕らは最大の感謝と喜びを。」
「君がみつけてくれたら、僕らはまた、僕らとして新たに生きようと思った。」
「彼女はまだ気付いていないようだが。じきに、知るだろう。」
 何食わぬ顔で淡々と語るキースは、ちょっとえらそうだ。
「みつからなかったら?」
「ただのジョミー、ブルー、キースとしてありえなかった子供時代をせいぜい満喫して生きていこうかな、とか」
あ、ジョミーは幸せだったね、昔も。
紅い瞳は、こんなにも力強く輝いていたのか。初めて知った。
「トォニィ?」
「僕は、昔から、かくれんぼが得意だったんですよ。グラン・パのマントの影に隠れたり、ブルーのベッドの後ろに隠れたアルテラをみつけたり。」
「知ってるよ、トォニィ。」
賑やかな君たちの声が、眠っている僕の耳にも聞えていたから。ああ、ジョミーの怒鳴る声もね。
不思議と、涙は流れない。だから、僕は目前の彼らをはっきりと見る事が出来た。小さい体、確かにそこにいる、子供たち。その姿はくっきりと、彼らであり、決して出遭えるはずはなかった幼い彼ら。
「みぃつけた。」
「みつかった。」
 肩に手をそえるキースのぬくもり、小さな体で抱き締めるグラン・パの暖かさ、そんな僕らを細い腕を精一杯、伸ばして支えるブルーの熱。すべてが懐かしく、新しい。
「くわしい言い訳は、後からフィシスや皆と聞きますからね、」
「大人になったなあ、トォニィ。」
「子供はちょっとみない間に、すぐに大きくなるんですよ、」
「だ、そうだよ、キース。」
「知らなかったな。私の場合はほぼ自我なく寝ていた。」
「フィシスと並んでぷかぷか浮かぶ君は、わりと可愛かったな」
「ブルー、あなた、こいつに痛い目にあわされたの、覚えてないんですか」
「年寄りはすぐに忘れるからね、ジョミー。」
 体の距離は密着していても、心は一部、溝もあるらしい。どうせ橋のかかってる溝だろうけれど。
「次はあなた方が鬼ですからね。僕をみつけてくださいよ」
「いつでも、みつけてあげるよ、僕らの大事なソルジャー。」
 偶然の贈り物に。素敵な贈り物に。
「誕生日プレゼント、前借りです」
 ありがとう。
 
 
 
 
 
 何度も立ったり座ったり、誰かも分からぬお偉いさんに頭を下げ、嬉しくも無いしかもやたらと長い祝辞を頂戴してはまた頭を下げる。私立校の中でも、イロモノ校として特に有名なシャングリラ学園も、そのお決まりの流れは変わらないようだ、とブルーは欠伸をかみ殺して時が過ぎるのを待つ。
ただ、ひたすらに無為な時間を過ごさなくても良かったのは、こちらを見てはにっこり穏やかに微笑む、良き友・リオのおかげだろう。この短時間の中で、彼とはもう長年の付き合いではないかと思える程、親睦を深める事が出来た。何せ、不思議な事に彼とは目を見ただけで意思疎通が出来てしまうのだ。始めは彼の指が手の平に文字を書く事で言葉を交わしていたのだが、理事長の話辺りでそれももう、目を見ただけで何となく、彼が何を言いたいのかが分かるようになって、あれよという間に無言に近い雄弁な会話が成り立っていた。勿論、自分は小声で言語を発するが、それが不要となるのも遠い未来ではあるまい。
 これ程までに、他人と心を通わせる事が出来るのかと驚くと同時に、なぜかとても懐かしい思いで胸が締め付けられる。何だろう、と胸に手をあててみても、とく、と己の鼓動が響いてくるだけで、答えは何も出はしない。けれど、その懐かしさは酷く温かく、そして心地良い物で、もしかしたらこの調子で自分は誰とでも心を通わせ、友になれてしまうのではないかという錯覚をおこしてしまいそうになる。
 ジョミーの心も、今、会えばよく分かるかもしれない。
 心によぎった考えは、ふ、と目元を和らげたリオに気付かれてしまったらしい。そうだ、リオとて、自分と同じ感触を得て、驚いているに違いない。聞いてみようか、なぜ、僕らはこうまでお互いの心を思いやって通じ合えるのだろうか、と。
「答えは聞いてないね。」
 微笑む友の顔に、同じように笑みを返す。
 そうだ、僕らは友だ。それで良い。
「ねえ、リオ。僕の家には居候がいてね。ジョミーというんだ。僕が小さい頃から一緒に住んでいてね。僕の兄も弟も、もちろん僕自身も、彼の事は家族同然に思っている、大切な人なんだ。それはジョミーも同じだといつも言ってくれる。そう、僕らは家族なんだ。・・・・でも、僕はどうしてだろうか。彼への親愛の情の片隅に、どうにも、彼に対して苦手というか。複雑な思いを抱いてる。そう、きっと僕はジョミーが良く分からないんだ。それが恐いんだろう。」
 口からは吐息ばかりが洩れ出で、言葉らしい言葉はおそらく、誰にも聞き取れなかっただろう。しかし、そんな心配を僕らの間でする必要はない。
「ブルー、ジョミーは今日、来ていらっしゃるんですか?」
 リオの朗らかな思いを、耳といわず全てで感受する。リオの声は胸によく馴染む。
「ああ、来ているよ。一目で分かるだろう。」
「見なくとも、どこに座っているかも分かりそうです。」
 おかしそうにそう言うリオは、目線であそこでしょう?と問うてくる。ああ、そうだよ。と、同じように目をそちらへ向け、僕らは秘密を共有しあった者同士、堪らない、と笑った。
 ジョミーは保護者席の最前列に優雅に足を組んで座っている。その気配は圧倒的で、他者の足元の影ですら、彼の何もかもを包み込まんとする思いの下にひれ伏しているようだ。
彼の心はこれ以上なく喜びに満ち溢れているけれど、少々、機嫌を崩してきているようだった。この講堂を覆う彼の思いは、端々につまらない大人たちの話を草々にやめろと強く念じる気配が色濃く沈んでいる。それが波となり、かれこれ十分以上も長々と話を垂れ流しているこの学園の理事の一人を今まさに、襲わんとしているのが見えた。
「あの来賓の方、気の毒ですね。」
 揶揄するかのようにそう呟き、リオは瞬き一つ。ぱち、と瞼を閉じる音が聞えた。
「希望に満ち満ちた前途ある若者達の心をここまで萎えさせているのだ。良い気味さ。」
「ご愁傷様です。」
 ぱち、ぱち。二度、続けて瞬いて、この後の予定を立てることにした。確か今日は、入学式の後はもう、なにもなかったはずだ。教室に入り明日から始まる高校生活の心得を担任から聞かされるだけのはず。すぐに帰宅できるだろう。
家へ送られてきたこの一週間の予定表には、明日は身体検査の文字が記されていた。
「嫌だなあ。」
 検査はどうも苦手だった。真っ白い、この軟弱な体を人前に晒すという事も、いくつもの検査を一列に並び、受けるという事も。あの、何とも言えない皆のそわそわした感も、全てが自分にはどうにも苦々しく思えてしょうがない。何より、面倒だ。貴重な一日を、検査だけに費やすなど、時間の浪費ではないだろうか。健康診断など、いざと言う時はあてにならない。
「・・・それはちょっと違うんじゃないかと、ブルー。」
「そうかい?でも、自分の体は自分が一番良く分かっているはずだよ。わざわざ他人に見せる事も無い。」
「余程、嫌いなんですねえ。」
「ああ。そうだよ。」
「でも、学校行事ですからねえ。」
「・・・年中行事を取り決めているのは先生方、か・・・・。」
 参列する教師陣を眺め、ふむ、と思案にふけはじめる。直に、入学式は終わりを告げるだろうけれど、揺らぐ思考は弾けとんだ後も、しばらく僕を明るく悩ませてくれそうだ。
突然の急病人発生の為、閉式となるまで後数秒。
僕がぽん、と手を打つのも、もうまもなく。






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